2022 Fiscal Year Research-status Report
キヌアの高塩環境適応のための無機イオン輸送制御機構の解明
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22K05374
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Research Institution | Japan International Research Center for Agricultural Sciences |
Principal Investigator |
小林 安文 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生物資源・利用領域, 任期付研究員 (00836968)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Chenopodium quinoa / 高塩ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
Chenopodium quinoa(キヌア)は、高い環境適応性および優れた栄養特性を備えている。本研究では、塩類集積土壌においても高い適応能力を示すキヌアについて、高塩環境への適応に対するNaイオンの集積制御と栄養無機イオンの輸送制御機構の役割を明らかにする。そこで、塩生植物に特異的な隔離器官の一つである塩嚢細胞を形成していないことを確認したキヌア幼苗段階に着目し、他の植物種と大きな形態的差のない生育段階でのNaイオンと他の無機イオンの集積特性を評価している。本研究グループで作出された北部高地型、南部高地型、低地型とした3種類の遺伝的背景をもつキヌア自殖系統から遺伝的組成が混合していない系統を6系統ずつ選び、播種10日後のキヌア幼苗に高濃度のNaCl溶液(600 mM)で24時間処理を行ったのち、イオンクロマトグラフ(IC)法でNaイオンを定量した。その結果、高塩ストレス処理に対してキヌア系統は、地上部にNaイオンを集積し、低地型系統集団では集積が高く、北部高地型系統集団で中間程度、南部高地型集団で低くなることが明らかとなった。そこで、集積性が異なる代表系統として、低地型の高集積系統および南部高地型の低集積系統をそれぞれ1系統決定した。また、集団を代表する系統での根部細胞の障害程度を評価したところ、低地型および南部高地型系統は、北部高地型系統よりも高塩濃度による細胞障害を受けにくいことが示された。キヌアの高塩環境での栽培適応に必須となるNaイオンおよび他の無機イオンの輸送制御機構を解明するために必要となる系統の選抜を行い、網羅的な無機イオンおよび遺伝子発現解析を行う処理条件を検証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キヌアの高塩環境での栽培適応に関連するNaイオンおよび他の無機イオンの輸送制御機構を解明するための系統を選抜することができた。現在までに、Naイオン集積性の異なる系統として決定した低地型の高集積系統および南部高地型の低集積系統について、ロングリードRNA-Seq(Iso-Seq)を分析委託した。また、Naイオン集積部位の系統間での違いが確認できた高塩ストレス処理にて経時的なRNA-Seqを実施しており、アップデートされているキヌアリファレンスゲノムに対する発現プロファイルを取得している。一方で、Na、Mg、CaおよびZnイオン蛍光インジケーターでの細胞内局在の解析を進めるため、キヌア組織に適した観察条件を検討中である。網羅的なイオン含量の分析については、IC法やイオン蛍光インジケーターでの一部のイオン含量および細胞内局在の系統間差およびトランスクリプトーム比較解析をもとに最適な経時処理条件を決定し、実施する予定である。なお、研究グループではこれまでに作出したキヌア自殖系統を用いて、多様な交配集団を作出している。今後の詳細な解析に用いる高集積および低集積な系統は、交配集団の情報も考慮して選抜した。現在、選抜した系統を交配した集団の世代を進め、組換え近交系の整備を行っている。キヌアの高塩ストレスへの適応に重要となるNaイオンを含む無機イオンの輸送制御に関して候補となる分子機構を決定できる状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
キヌアの高塩ストレスへの適応に関連するNaイオンを含む無機イオンの輸送制御機構の候補となる分子機構を決定する。そのため、高集積および低集積系統のIso-Seqデータの解析から、転写産物のバリアントを検出し、系統間での比較を行う。加えて、高塩ストレス処理の有無で実施したRNA-Seqの発現プロファイルを比較し、系統に特異的な発現応答を示す遺伝子(群)を同定する。それらの遺伝子(群)に関して、バリアントの有無を確認し、高塩ストレスに対する遺伝子発現についてバリアントの発現を考慮して系統ごとに比較を行う。これらの結果は、系統に特異的な高塩ストレス応答に関連する分子機構を決定するための判断材料とする。また、経時的な高塩ストレス処理に対するイオン輸送関連遺伝子の発現プロファイルおよびNaイオンを含むK、Mg、Caイオンなどの含量分析などから、高集積および低集積系統の網羅的なイオン含量分析を実施するための処理期間を決定する。高集積および低集積系統の組換え近交系については、高塩ストレスに対するイオン含量測定を実施し、集団におけるイオン含量のバリエーションを確認する。次いで、次世代ゲノムシーケンスを併用して集団内でのイオン含量の差異に関係する遺伝子座を同定する。これらの解析によって選抜した遺伝子(群)がキヌア系統間のNaイオンを含む無機イオンの輸送制御に関連するかどうかを確認するために、キヌアのウイルス誘導ジーンサイレンシング法を用いて候補遺伝子のサイレンシング個体の作出およびそれら遺伝子の機能評価系を確立する。
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Causes of Carryover |
Naイオン集積性の異なる系統として決定した低地型の高集積系統および南部高地型の低集積系統においては、顕著なNaイオンの集積部位の違いが確認できた。一方で、本研究で用いているHPLCで分析した一部イオン(Kイオンなど)についての系統間の差異はNaイオンと比較して小さかった。決定した系統を用いて網羅的なイオン含量分析を実施する予定であったが、処理期間を検証する必要が生じたため、分析を実施できず、次年度使用が生じた。現在、RNA-SeqやIso-Seqのデータに基づいて系統間での遺伝子発現および遺伝子バリアントの比較を進めている。キヌアのイオン輸送に関連する遺伝子について高塩ストレスに対する発現プロファイルなどを確認したのち、網羅的なイオン含量分析に用いるサンプルの処理期間を決定することとした。次年度使用額として、高集積および低集積系統の高塩ストレス処理の有無に対するICP-MSなどによる網羅的なイオン含量の分析委託経費および分析に必要なプラスチック実験器具、試薬等の費用を計上する。
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