2023 Fiscal Year Research-status Report
土壌からのヒ素吸収を抑える未知の嫌気性代謝関連応答の解明
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22K05375
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
林 晋平 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (40781323)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 覚 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, グループ長 (40354005)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ヒ素 / イネ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イネにおいて根の嫌気性代謝を担うと考えられるアルコールデヒドロゲナーゼの活性低下が土壌からのヒ素吸収を抑制するという発見に基づき、コメのヒ素低減技術開発に向けてそのメカニズムの解明を目指している。嫌気性代謝のどのような変化が引き金となり、どのような応答(遺伝子発現の変化等)が起きることでヒ素吸収抑制効果が発揮されるのかを明らかにするため、イネの嫌気性代謝経路を様々なかたちで変化させて分析・比較することにした。イネの嫌気性代謝経路においては、似た活性を持つ酵素が複数存在しており、そのうちの1つが破壊されても機能の余剰性により影響が隠れてしまう可能性が考えられたため、複数の酵素を同時破壊して調べることにした。 令和4年度は、研究材料として、代表的な嫌気性代謝反応であるアルコール発酵や乳酸発酵等を担う酵素の複数同時破壊株を作出した。多重変異体作出は、従来の交配による変異集積法では複数年かかるが、本研究ではゲノム編集ツールを活用した高効率な変異導入により1年以内に達成できた。 令和5年度は、これらの破壊株についてヒ素形質の評価や遺伝子発現解析等を行なった。玄米や稲わらのヒ素濃度を測定した結果、破壊によりヒ素吸収が抑制される酵素群と抑制されない酵素群があることがわかり、ヒ素吸収抑制応答の引き金となる嫌気性代謝反応経路を絞り込むことができた。 今後は、この引き金となる代謝経路に関連する遺伝子発現や代謝産物の変化等を調査し、ヒ素吸収抑制応答メカニズムの分子レベルでの説明を試みるとともに、より効果的にヒ素吸収を抑制できる嫌気性代謝関連変異の組み合わせを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画よりも早く作出に成功した嫌気性代謝酵素群破壊株についてヒ素形質の評価や遺伝子発現解析等を実施した。この結果、機能欠損によりヒ素吸収抑制が起きる酵素群を新たに発見し、目標としているヒ素吸収抑制応答の引き金となる嫌気性代謝反応経路の絞り込みに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
機能欠損によりヒ素吸収抑制が起きる酵素群を新たに発見してヒ素吸収抑制応答の引き金となる嫌気性代謝反応経路を絞り込んだ成果をまとめ、成果の公表を目指す。 さらに、このヒ素吸収抑制応答のメカニズムのより詳細な解明を目指す。最初に低ヒ素系統として発見されたアルコールデヒドロゲナーゼ2の変異体では表現型の発現が出穂期以降に限られていて分析試料の獲得が困難なことが解析のボトルネックとなっていた。今回作出した遺伝子多重破壊株ではアルコールデヒドロゲナーゼ等酵素の働きがより強く抑えられているため、早期に表現型が発現してこのボトルネックを解消できる可能性がある。そこで、この破壊株が幼植物体で低ヒ素形質を示すような条件を検討し、関連する遺伝子発現や代謝産物の変化を調査して、ヒ素吸収抑制応答メカニズムの分子レベルでの説明を試みる。 また、低ヒ素形質を示すことが明らかになった嫌気性代謝関連酵素破壊株を用いて交配実験を行う。この株では、類似の酵素が複数同時に破壊されているが、全ての酵素が低ヒ素形質に寄与しているのではないと推測される。酵素の無用な破壊による副作用を減らすため、野生株との交配により様々な組み合わせの破壊株を系統化し、低ヒ素形質に必要な組み合わせを検討する。 本研究で作出した破壊株は、いまだ不明な点の多いイネの嫌気性代謝の働きを理解する材料としても有用であるため、低酸素適応等の関連分野の進展に資するデータ取得も並行して試みる。
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Causes of Carryover |
嫌気性代謝酵素群破壊株の設計が功を奏し、これらのヒ素形質評価によって想定よりも多くの情報が得られた。そのため、当初予定に比べて、解析が必要なサンプルを絞り込んで減らすことや、いくつかの実験を省略することができた。同時に、当初予定よりも詳細に調査するべき遺伝子や代謝産物等が見出されたため、これらの調査(次年度)に経費を回すことが必要となった。
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