2022 Fiscal Year Research-status Report
非タンパク性アミノ酸を創出する微生物酵素の巧みな触媒機構の探究
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22K05412
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
丸山 千登勢 福井県立大学, 生物資源学部, 准教授 (20452120)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 非タンパク性アミノ酸 / 二次代謝 / 生合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペプチド系化合物は、有用な生理活性を示すだけでなく、その化学構造に産業上重要な非タンパク性アミノ酸(NPAA)を含むことも特徴の一つである。放線菌は、有機合成が難しいNPAAを驚くほど巧みに創り出している。その生合成機構を解明することは、「産業上の重要性」だけでなく、酵素反応機構を解き明かす生合成研究の醍醐味でもある。放線菌が生産する抗生物質resormycin(RM)は、特徴的な3つのNPAAから成るトリペプチド化合物である。これらのNPAAは、医薬品の合成中間体原料として重要であり、またNAPPを生合成する酵素は、臨床診断用酵素としても応用利用が期待できる。 さらにNPAAの最大の魅力は、その化学構造と物性に起因するユニークな生理活性であり、また合成化学における重要な中間原料としての役割も大きい。NPAAを活用したペプチド創薬は、構造多様性を与えるだけでなく、プロテアーゼによる分解を阻害するなどの知見から、今後さらにNPAAの需要が拡大すると考えられる。またNPAA生合成酵素は、基質アミノ酸に特異的な反応を触媒することから、様々な疾病に起因する血中アミノ酸濃度変化を迅速測定するための臨床検査への応用が期待される。そこで申請者らは、NPAAの新たな探索資源および臨床上有用なアミノ酸修飾酵素の探索資源として、微生物が生産するペプチド系二次代謝産物の多様性に着目した。 昨年度までの研究課題(基盤研究C19K05776)の研究成果から、RMが有するジアミノアミノ酸が、これまでに知られるピルビン酸や2-オキソグルタル酸などのケト酸を出発物質とするジアミノアミノ酸の生合成経路とは全く異なるメカニズムで生合成されることを見出した。そこで本研究課題では、RM生合成機構の全容を解明し、その中でも特にNPAA生合成酵素を応用利用するための基盤技術を確立する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究成果(基盤研究C : 19K05776)から、β-hLysがL-Argより生合成されることを見出し、またβ-hLys生合成に関与する7つの酵素遺伝子を見出した。本年度はこれら7つの遺伝子の各破壊株が蓄積する生合成中間体の探索を進めた。その結果、L-Argの代謝物であるagmatineをputrescineに変換するagmatinaseをコードするorf14遺伝子の破壊株において、β-hLysの前駆体であるα-hLysの末端アミノ基がグアニジド化された化合物に一致する生合成中間体が観察された。そこで、orf14遺伝子破壊株の培養上清を基質に、Orf14組換え酵素を用いたin vitro反応を行ったところ、α-hLysを生成することが判明した。 RMのPhe誘導体における2箇所の水酸化を触媒する酵素遺伝子を探索したところ、興味深いことに、本遺伝子群にはPhe-4-水酸化酵素に相同性を示す酵素遺伝子がorf8遺伝子一つしか存在しなかった。そこでOrf8組換え酵素を用いたin vitro反応を実施した。Orf8は従来型Phe水酸化酵素群と同様に、5,6,7,8-tetrahydropteridine(BH4)を補酵素とする水酸化酵素であると予想されたことから、従来型Phe水酸化酵素の反応組成を参考に反応を行ったところ、Pheを基質に3位と5位を段階的に水酸化することが判明した。次に、2回の水酸化反応に関わるアミノ酸残基を同定するために、従来型Phe水酸化酵素のX線結晶構造とのモデリング解析を行ったところ、基質であるPheのベンゼン環近傍領域に、既存のPhe水酸化酵素とは異なる活性残基を有することも見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
β-hLys生合成経路として、L-Argを出発物質として、β-hLysの前駆体であるα-hLysの末端アミノ基がグアニジド化された化合物(2-amino-7-guanidino-heptanoic acid, AGH)を経由してα-hLysを生合成した後、アミノ基転移反応にて生成されることを明らかにした。またこれまでにこの一連の反応に関わる7つの酵素遺伝子を絞り込んでおり、今後の研究では、これらのうちL-ArgからAGHへと増炭反応に関わる酵素遺伝子の同定とin vitro反応を実施する。 また、既存のPhe-4-水酸化酵素(Tyr合成酵素)のX線結晶構造解析をもとに、Orf8のモデリング解析を行なったところ、Phe-4-水酸化酵素やPhe-3-水酸化酵素で高く保存されている活性残基はよく保存されていたが、水酸化部位の決定に重要なアミノ酸残基はいずれの既存酵素にも一致せず、基質であるPheのベンゼン環周辺に広い空間を形成する可能性が考えられた。この領域のアミノ酸残基の違いが、Orf8の水酸化部位選択性に重要であることが強く示唆された。今後の研究では、モデリング解析で見出したアミノ酸残基について、Orf8の変異型酵素を用いた解析を実施し、水酸化位置の選択性および反応メカニズムについて詳細な機能解析を進める。
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