2022 Fiscal Year Research-status Report
糸状菌における環境応答と酵素生産を協調的に制御する分子機構の解明とその応用
Project/Area Number |
22K05413
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
谷 修治 大阪公立大学, 大学院農学研究科, 准教授 (80405357)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 糸状菌 / セルラーゼ / 遺伝子発現制御 / 形態形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
多糖分解酵素生産糸状菌 Aspergillus aculeatus において、我々が同定した酵素遺伝子発現制御因子が、糸状菌の形態形成や環境応答機構も制御することを見出した。本研究では、この異なる生命現象を共通の因子が制御する分子機構を解明することを目的としている。 UDP-glucose 4-epimerase (Uge5): A. aculeatusにおけるセルラーゼ遺伝子群の発現は、セロビオースとマンノビオースに応答して発現が誘導される。この内、Uge5はマンノビオースに応答した遺伝子発現制御のみに関与することを明らかにした。この内容をまとめた論文が、Applied Microbiology and Biotechnologyに掲載された。Uge5は細胞壁を構成する糖を供給することから、細胞壁の恒常性維持に関わるシグナル伝達経路との相互作用についても検証している。 Serine-arginine protein kinase F (SrpkF): 416アミノ酸からなるSrpkFは、328番目以降のアミノ酸を欠失した場合に、セルロースに応答した酵素遺伝子発現が低下し、塩ストレス条件下における胞子形成能が低下する。そこでC末端部分の推定アミノ酸リン酸化部位に着目して変異を導入したところ、誘導物質がなくてもセルラーゼ遺伝子の発現が促進されることを見出した。 Dipeptidyl peptidase IV (DppIV): dppIV遺伝子破壊株では、セルラーゼ遺伝子の発現が低下する一方で、高発現株では参加ストレス耐性を獲得する。このdppIV高発現において、酸化ストレス耐性に関与する遺伝子の発現が亢進されていることを見出した。 以上の成果は、酵素生産調節機構と形態形成や環境応答機構が相互に調和をとりながら制御されている分子機構の解明につながる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A. aculeatusにおけるセルラーゼ遺伝子群の発現は、セロビオースとマンノビオースに応答して誘導される。この誘導はいずれも転写因子ManRを介して制御されている。Uge5は、マンノビオースに応答した遺伝子の発現を誘導するが、その作用機序は未解明である。まず、Uge5の反応産物が遺伝子発現に与える影響を解析した。UDP-glucoseを添加した場合のセルラーゼ遺伝子群の発現を定量した結果、UDP-glucose添加条件下で発現量が変動する傾向にあった。この現象に関しては、鋭意解析中である。また、ManRが異なる等に応答して遺伝子の発現を誘導するためには、ManRとは異なる転写因子が介在していると仮定して、転写因子の探索を行い、候補因子を同定している。ManRとこの候補因子の相互作用解析を進めている段階である。 SrpkFのリン酸化部位を特定するために、FLAG融合SrpkFタンパク質をA. aculeatusで発現する株を作出した。並行して推定リン酸化部位に変異を導入して形質を観察した結果、セリン残基をグルタミン酸に置換したSrpkF発現株において、非誘導条件下におけるセルラーゼ遺伝子の発現が亢進する現象を見出した。 A. aculeatusにおいてdppIVを高発現すると酸化ストレス耐性を獲得する。このメカニズムは不明であったが、酸化剤を添加した場合に、酸化ストレス応答遺伝子の発現が亢進する条件を見出した。この応答は、dppIVの触媒残基を改変すると観察されないことから、dppIVのペプチダーゼ活性が酸化ストレス応答に寄与していることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
Uge5はUDP-glucoseとUDP-galactoseの相互変換を触媒する酵素である。そこで、uge5の機能を調べるにあたり、Uge5の反応産物が酵素遺伝子発現に与える影響を解析することを計画した。予備的な実験の結果、Uge5の反応産物の添加が多糖分解酵素遺伝子群の発現に影響することが示唆されたが、実験結果が一定にならなかった。これは、uge5と相同な遺伝子がもう一種類あることから、反応産物の添加効果を評価しづらいと考えた。そこで、新たにuge5の相同遺伝子を破壊してから解析を行うことにした。また、Uge5が関与する遺伝子発現を誘導する候補因子の解析を進め、異なる糖に応答した遺伝子発現制御機構を解明する。 SrpkFのC末端側328-416アミノ酸部分のセリン残基がSrpkFの活性調節に寄与していることが示唆された。タンパク質リン酸化酵素の活性は、リン酸化を介した分子内相互作用により調節される場合がある。SrpkFの構造予測ではN末端側とC末端側がリンカーを介して自由な形態をとりうる構造をしていたため、Yeast two hybrid法を用いてリン酸化の有無によりSrpkFのN末端側とC末端側で分子内相互作用が起きうるのか解析する。また、引き続きSrpkFの基質の探索を行うことで、SrpkFが関与する形態形成と酵素生産調節機構の解明を目指す。 DppIVはN末端から2番目のアミノ酸がプロリンかアラニンの場合、そのC末端側を加水分解してジペプチドを生じる酵素である。この基質特異性は大腸菌、カビ、ヒトで保存されているものの、カビにおける生理的な基質は未同定である。引き続きDppIVの基質の探索を行う。
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Causes of Carryover |
学会がオンラインになり、旅費がかからなかった。また、現有の試薬や酵素類で研究が捗り、予算を次年度に繰り越すことになった。当該年度の研究により、我々が同定した因子の新たな機能の一旦を解明することができ、一つの制御因子が多様な制御機構に関与していること、その関与している経路を限定することができた。したがって、本年度、条件を絞ってRNA-seqによる網羅的解析を行うことが可能となった。RNA-seq解析に繰り越し予算を使用することにより、多面的に因子の機能を解析し、形態形成、ストレス応答、および多糖分解酵素遺伝子の制御機構がクロストークして制御されている機構を解明する。
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