2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of highly efficient plant tissue culture media using enhanced vegetative reproduction with the addition of high concentrations of copper sulphate.
Project/Area Number |
22K05576
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
大坪 憲弘 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (30270474)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 植物組織培養 / 組織培養用培地 / 硫酸銅 / 脱分化・再分化 / カルス化 / 不定芽誘導 / 形質転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度にポインセチア及びユーストマのカルス化と再分化に適切な硫酸銅添加濃度を決定し、従来法よりも大幅なカルス化および再分化効率の向上を確認した。令和5年度はまず本研究の最終目標である「硫酸銅施用量の至適化を実際の形質転換系統作出作業を通じて行い、形質転換プロトコルの作成・アップデートを進めて公開・普及」することに主眼を置き、ポインセチアおよびユーストマの組織培養用培地組成の至適化の完了と実用性の検証を優先して、ユーストマとポインセチアの複数の品種・系統でアグロバクテリウム法での形質転換に用いるすべての培地の至適組成を確立した。その結果、材料育成、前培養、共存培養、選抜培養、再分化にそれぞれ用いる計15種類以上の培地組成の至適化を完了し、プロトコルを完成した。さらに、ユーストマについてはこの至適化プロトコルを用いてゲノム編集系統の作出と有用変異系統の取得に成功しており、その成果の一部を令和5年9月の日本植物バイオテクノロジー学会で発表したほか、論文として公表の準備を進めている。 一方、令和4年度までの研究で超高濃度の硫酸銅耐性を持つことが明らかとなったモデル植物のトレニアについては、より低濃度での応答の詳細な解析に加え、糖およびゲル化剤の組成の検討を行った。その結果、硫酸銅については当初の予想を大きく下回る濃度から増殖促進の効果が見られ、さらに安定に葉外植片からの不定芽誘導と発根を促進できる最小濃度を決定した。糖についてはMS培地に通常用いるスクロースを減量して分子量が同じトレハロースを加えることで、糖の切り替えによるストレスを回避しつつ植物を長期間良好な状態で培養できることがわかった。ゲル化剤についても寒天とゲランガムの混合で植物体の分化やその後の生育が促進される傾向が見られたが、濃度および混合比についてはさらに検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目標である「硫酸銅施用量の至適化を実際の形質転換系統作出作業を通じて行い、形質転換プロトコルの作成・アップデートを進めて公開・普及」に対して、ユーストマとポインセチアの複数の品種・系統でアグロバクテリウム法での形質転換に用いるすべての培地の至適組成を確立したこと、この至適化プロトコルを用いてゲノム編集系統の作出と有用変異系統の取得に成功したほか、これまで形質転換が難しかった品種についても効率的に組換え体やゲノム編集系統の作出が可能となったことから、研究は概ね順調に進捗していると判断した。 また、モデル植物のトレニアでは、より低濃度での応答の詳細な解析に加え、1)炭素元として用いるスクロースとトレハロース混合比率の改良、2)ゲル化剤として用いる寒天とゲランガムの混合比率の改良、の2点について解析を行い、2 μMの硫酸銅添加で安定に葉外植片からの不定芽誘導と発根を促進できること、スクロースとトレハロースを等量とすることで、糖の切り替えによるストレスを回避しつつ植物を長期間良好な状態で培養できること、寒天とゲランガムの混合で植物体の分化やその後の生育が促進されることを明らかにするなど、当初の計画に沿って期待どおりの成果が得られている。 今年度のもう一つの前倒し課題であった木本のヌルデ、チャ及びマンデビラでの高濃度硫酸銅添加効果の解析については、基本となる組織培養条件、特に植物ホルモンの組成と濃度の検討に時間を要したため硫酸銅濃度の検討は次年度に持ち越しとしたが、ヌルデとマンデビラについては形質転換カルスから不定芽の分化を確認するなどの結果が得られており、最終年度で予定どおり硫酸銅施用の効果が確認できる予定である。 このように、本研究は概ね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
ポインセチアおよびユーストマの形質転換・ゲノム編集用培地組成の至適化と実用性の検証についてはR5年度で完了したことから、R6年度は高濃度硫酸銅添加が木本植物も含めあらゆる植物種に適用可能かを検討し、汎用性の高い添加濃度を決定して新たな基本培地として確立することを目指す。具体的には、 1) ヌルデ、チャ、マンデビラのそれぞれについて、基本となる組織培養用培地の組成や形質転換条件を決定した上で硫酸銅の施用効果を確認し、各段階で用いる培地それぞれにおける至適濃度の検討を行う。 2)複数の植物種での結果を踏まえ、様々な植物種に対して最大限の効果をもたらす基本培地の硫酸銅濃度を決定する。 3)上記で決定した新たな基本培地について、糖およびゲル化剤の組成と濃度を変化させて各種植物の増殖促進効果を調査し、従来の3%スクロース+寒天またはゲランガムの組み合わせを上回る効果をもたらす汎用性の高い組み合わせを見出す。 の3点に取り組む。 これまでに試験を行った植物種ではいずれもMS培地の0.1 μMよりも高い濃度の硫酸銅添加が植物の増殖やカルス化、不定芽の再分化を促す結果となっていることから、60年以上にわたり植物組織培養の基本培地として用いられてきたMS培地そのものの改良につながる、波及効果の高い成果となるものと期待される。硫酸銅添加の汎用性については、外部の研究者の協力も得て可能な限り幅広い植物種で検証していく予定である。
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Causes of Carryover |
令和6年度は組織培養の対象となる植物種が多く、これらにかかる器具・試薬類の費用が5年度を上回る可能性が高かったことから、当該額を次年度使用としてこれらに充当することとした。
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