2023 Fiscal Year Research-status Report
有機農業生態系の養分循環におけるバイオアクセラレーターとしての雑草の機能
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22K05592
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西田 瑞彦 東北大学, 農学研究科, 教授 (20355324)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 雑草由来窒素 / 牛ふん堆肥由来窒素 / 有機水田 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、有機農業生態系における雑草が吸収した養分の循環システム全体を解明し、雑草が有機農業生態系の養分循環をアクセラレートする機能を解明することを目的とする。 研究対象とする養分は作物の生育と生産にとって最も重要な窒素とし、対象雑草は代表的強害雑草のコナギ(広葉雑草)およびヒエ(イネ科雑草)とする。雑草のような有機物を由来とする窒素の循環を正確に解明するには、重窒素トレーサー法が有効である。本研究ではコナギとヒエを重窒素標識し、その形態変化とフローを解明する。 コナギとヒエを重窒素標識し、2021年の12月に有機水田に設けた1株試験区の土壌に施用し、昨年および一昨年の2カ年にわたり水稲作におけるこれらの雑草由来窒素の水稲および雑草による吸収量、土壌への残存量を定量した。雑草由来窒素は2年とも水稲による吸収が認められ、雑草種で大きな違いはなかった。また,土壌中に残留した雑草由来窒素の2年間の推移から、雑草窒素の無機化は初期に活発なこと、2作目には緩やかに進むことが示唆された。また2回の水稲栽培を経てもなお4割程度が土壌に残存しており、雑草由来窒素が有機農業生態系に長期的に関与することが示唆された。 有機栽培水田では雑草は機械除草時に土壌に還元されることが想定される。そこで、機械除草時期を想定し、7月初旬に重窒素標識したコナギおよびヒエを還元し、雑草由来窒素の水稲および雑草による吸収量、土壌への残存量を定量した。その結果、7月に還元された雑草由来窒素は当年の水稲に吸収され、コナギの方がヒエよりも水稲による吸収率が高く、雑草種間で明瞭な違いが認められた。 以上のことから、雑草の窒素は有機農業生態系の養分循環システムにおいて重要な役割を持つこと、また雑草の還元時期および雑草の種類によってその窒素動態が異なることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有機水田において冬に還元されたコナギとヒエ由来窒素の水稲2作後の動態を定量化できた。また、雑草の還元時期を実際の圃場条件に近づけ、機械除草のタイミングで還元された雑草由来窒素の動態を定量化できた。さらに、予備実験により、本研究で用いている小規模プロットを仕切るための枠内で雑草が周囲よりも繁茂しない原因を明らかにした。これらのことから、順調に推移していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに土壌還元した雑草由来窒素の動態は継続して追跡する。また、収穫後の耕起のタイミングで雑草が土壌還元される処理も設けたので、今後はその窒素動態も追跡する。また雑草由来窒素の土壌中の可給態窒素画分への関与を解明する。また、本研究で用いている小規模プロットを仕切るための枠内で雑草が周囲よりも繁茂しない原因を明らかにしたので、堆肥由来窒素の水稲と雑草との競合関係を改めて定量的に解明する方針である。
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Causes of Carryover |
研究目的達成には多数の同位体分析を実施する必要があり、それにより同位体分析費が多額となることが想定されたため、備品、旅費への支出を控えた。また、土壌の可給態窒素画分の試料については、調整が間に合わなかったため、多数の試料の分析が次年度へ持ち越しとなった。このため次年度使用額が生じた。翌年度の分析点数は非常に多く、同位体分析費に充当する予算を増やさざるを得ない。これにより他の項目を圧迫すると見込まれるが、その不足分は大学運営費もあてる予定である。
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