2022 Fiscal Year Research-status Report
Enhancement of hypoxic tolerance, and clarifying of oxygen acquisition mechanism of root of millet and buckwheat under hypoxia
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22K05602
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
松浦 朝奈 信州大学, 農学部, 准教授 (30299672)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 耐湿性 / 雑穀 / ソバ / 根 / 成長 / 生理生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
雑穀3種を通気した対照区と窒素を通気後に静置した低酸素区の培養液にエセフォン濃度を添加した処理区を加えて2週間栽培した.対照区にエセフォンを1mg/ml添加すると,すべての雑穀で個体成長速度に有意差はなかったが,ヒエでは増加する傾向を示し,テフでは変化せず,アワでは低下する傾向を示した.低酸素区では,テフの個体成長速度は有意に減少した.一方,ヒエとアワでは有意差はなかったが,増加する傾向を示した.ヒエとテフの根のTTC反応は,すべての処理区で同様に赤く呈色したが,アワの低酸素区では最も薄く,エセフォンを添加した場合には低酸素区より赤く呈色した.ヒエはエセフォンの添加に関わらず対照区と低酸素区で根端2cmから,テフは根端1cmから通気組織が観察された.アワでは,対照区ではエセフォンの添加に関わらず通気組織は観察されなかった.低酸素区でも通気組織は観察されなかったが,エセフォンの添加によってわずかに通気組織が観察された. 砂土を充填した塩化ビニル製の円筒にソバ5品種の種子を播種し,播種後15日目(久木野,常陸秋そば,九系55)と22日目(宿根ソバ,FG)に溶存酸素濃度を1mg/L以下とする培養液で円筒表面まで浸水した低酸素区と円筒底部から5cmまで培養液に浸漬した対照区を設けて20日間栽培した.低酸素処理によって個体成長速度は13~40%に著しく低下した.個体成長速度から算出したストレス感受性指数は,FG>久木野=宿根ソバ=常陸秋そば=九系55の順となった.FGと宿根ソバの葉面積/根の乾物重比は低酸素処理によって変化しなかったが,そのほかのソバでは増加する傾向を示した.すべてのソバの根の内部に通気組織が確認されなかった.また,すべてのソバの根の下皮にはスベリンの蓄積が観察された.根の画像から,FGの低酸素区の根系は,他のそばに比べて長さ10cm以下の短い根が多かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画における1年目の実施予定は次のようであった. 耐湿性の弱い作物は,対照区においても高温により微生物の害を受けるが,これは,試験栽培ならではの人工的な影響である.そこで,根域の高温を回避するため,地表面を1m下げたビニルハウスを新たに設置する(備品として購入).雑穀は水耕栽培,ソバは砂耕栽培とし,低酸素処理は培養液を窒素で通気して酸素濃度を1mg/ml以下に調整する.播種1か月後の植物体を材料として,不定根の根端から1cmごとに10cmまでの通気組織を顕微鏡で観察する.さらに,根の呼吸活性と酸素の漏出の有無をそれぞれTTC還元法とメチレンブル-法にて測定する.また,根端から1cmごとに10cmまでの細胞の断面について,ニュ-トラルレッドで酸性の有無を,エバンスブル-で生死の判定を行ってプログラム細胞死の実態を明らかにする.各処理区の通気組織の発生部位と非発生部位の根のエチレン濃度を測定する.処理2週間後の乾物重から,個体の成長速度を算出する.処理終了時の植物体を器官別に分け,窒素濃度を測定する.ソバでは,栽培容器を上側と下側に分けて根を採取する.以上の結果から,個体の成長速度と不定根の通気組織(ソバでは上側の根の割合),根の呼吸活性,根のエチレン濃度,根の成長量,植物の器官別窒素濃度との関係を明らかにする. 「研究実績の概要」に記述したように,本研究に特化した新たなビニルハウスを設置し,雑穀とソバそれぞれ計画通りに進行している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進策としては,以下の2点が挙げられる.まず,実験計画には次のように計画した. 雑穀とソバの低酸素耐性機構にエチレンが関与しているかどうかを明らかにする.オオムギでは,37.5μMのエセフォンの投与は根の成長を著しく減少させる(Shiono et al., 2019)ため,雑穀とソバを対象に通気組織の形成を促進するが,根の成長を変化させないエセフォン濃度を決定する.また, 1-アミノシクロプロパンカルボン酸オキシダーゼの活性によってエチレンに分解される1-アミノシクロプロパンカルボン酸を雑穀とソバの根に投与して,個体の成長速度,不定根の通気組織,根の呼吸活性,器官別の窒素濃度との関係を明らかにする. 低酸素耐性の弱い雑穀やソバの系統を多数用いて,低酸素耐性の強い系統を探る. 1年目の研究結果より,エセフォンの適切な濃度が明らかになり,通気組織の発生を通じて成長を増加させる可能性が示唆された.実用的に圃場に農薬を散布することは回避したい.またソバの低酸素耐性には,通気組織の関与はなく,根の成長が重要であることが示唆された.そこで,一つ目の研究推進策として,これら両方に効果のある栽培方法や品種選抜に着目して根への有用物質の適用を検討したい.2つ目に,多数の作物から同時に多くの測定項目を調査することは困難を極める.昨年までは申請者が職場を移動したことで研究補助者が付属していたが,今年度から大学院生や卒研生などが複数配属されたため,実験方法を精査して膨大なデータを採取できると期待される.
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Causes of Carryover |
職場の変更によって,論文公表への支援に違いがあったため不足額が生じたが,今年度以降は新しい職場の方針がわかったため,研究費を減らして論文公表への予算を配分することによって対応できる.
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Research Products
(2 results)