2022 Fiscal Year Research-status Report
急変する気象条件に対する植物適応能力を強化する超音波処理技術の開発
Project/Area Number |
22K05611
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
切岩 祥和 静岡大学, 農学部, 教授 (50303540)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ストレス耐性 / 種子プライミング / 超音波 / 育苗技術 / 抗酸化応答 / 変温処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
超音波を種子処理するとストレス耐性が向上する。しかし、その効果は作物種、超音波処理条件により異なり、超音波の植物に対する作用はいまだに明らかではない。研究代表者は超音波の種子処理によるストレス耐性向上効果として、キャビテーションに伴い発生する活性酸素種に着目し、処理条件と活性酸素種の発生状況との関係を調査した。その結果、アルミホイルの破断程度と活性酸素種の発生との間に関係はなく、また活性酸素種の発生程度と発芽率の間にも明確な関係は認められなかった。これらのことから、超音波による処理効果は、活性酸素種が主要因ではなく、音波による関与の可能性が大きいのではないかと考えられたため、処理槽内の音圧の強弱の影響について調査し、その関与について検討する予定である。 本実験では、作物の環境ストレスとして「急変する条件」をとり上げた。研究代表者は生育環境が急変する天候下で作物がしおれる現象を確認しており、実験的に安定した高温条件で検討した結果よりも、不安定な環境での処理により悪影響を受けやすい可能性があり、変温処理について検討した。その結果、レタスでは高温区と変温区でいずれも対照区に比べ生育は同程度に低下したが、200kHzの超音波の種子処理をすると、変温区における耐性向上効果(対照区に比べ2倍)が高く、高温区と対照区では1.3倍であった。一方、コマツナでは高温区と変温区の生育は同程度に低下した。しかし、活性酸素種の葉内蓄積程度は、高温区で変温区に比べ蓄積が早く、コマツナの生育にとって両処理区の影響は異なると考えられる。超音波の種子処理による耐性向上等の効果は、コマツナでは確認されなかった。 これらのことから、変温環境によるストレス応答や、耐性向上効果を目的とした場合に、レタスのように超音波処理によりさらに大きな耐性向上効果を発揮する技術としての可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の実験結果からも明らかなように、植物のストレス耐性を評価する段階での生育条件によりストレス耐性効果が異なることが明らかになった。このことはある程度想定されたことではあったが、ストレス耐性を評価する実験系の重要性を改めて認識することができた。超音波の種子処理においては、処理する種子の構造と種子処理時の条件など、非常に繊細な処理を行う必要性を実感しており、現在は種子1粒ずつを処理する実験系を構築し、より高精度な処理を行っているところである。このように、本研究の初年度に超音波の特性を再度理解して処理法を見直すことができたという意味で、計画以上の進展ではなかったが、処理精度を向上できたという点と、急変処理区が恒温処理区でのストレス条件と効果が異なることを確認できた点で、本研究テーマを進める上では順調な1年目であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
超音波の種子処理は、種子ごとに照射強度が不均一となることが想定され、実験結果の誤差の要因となっている可能性があった。そこで、処理強度の不均一の解消を目指した処理方法の検討を進めている。その上で、発芽特性、苗質の評価、ストレス耐性などの植物体の特性について評価する予定である。 最終的には急変環境にも耐える苗を育成する処理条件を明らかにすることが本研究の目的であるが、急変環境に対する植物の応答は、短周期で繰り返される適温時間と不適時間での回復・耐性・生育のバランスが関連すると考えられ、植物体の生育応答をしっかり理解した上で、耐性効果について評価する必要があると考えている。
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Causes of Carryover |
備品として購入予定であったパワーブロックインキュベータ(25万円×3台)を利用した実験系を想定していたが、超音波処理条件の検討と、急変処理条件については既存の人工気象器を活用した実験系で試験を進めることができたため、それらの購入が次年度以降となる見込みである。また、超音波の処理法を再検討する過程で、別の装置の購入を優先したことから、次年度使用額が生じている。
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