2023 Fiscal Year Research-status Report
昆虫の複眼と鱗粉の微細構造形成メカニズムの分子生物学的解析
Project/Area Number |
22K05670
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
二橋 美瑞子 (長内美瑞子) 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (00422402)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 微細構造 / 鱗粉 / 複眼 / クチクラ / カイコ / RNAi / エリサン |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の表面微細構造は、その多様な機能から工学的にも着目され、生物模倣(バイオミメティクス)の対象ともなっている。例えば、蛾の複眼の表面構造(モスアイ構造)は、反射を防ぐ性質を持つため、無反射フィルムに応用されている。また、クチクラから成る鱗粉の微細構造は、撥水性や鮮やかな構造色と密接な関係がある。ただし、蛾の複眼や鱗粉をはじめとする、生物が持つ多くの微細構造については、その形成メカニズムがほとんど未解明である。本研究では、カイコを用いて、鱗粉と複眼のクチクラの微細構造形成期に発現する遺伝子の機能解析を行い、微細構造形成に重要な遺伝子群を同定し、翅と複眼という異なる微細構造形成に関わる分子メカニズムの解明を目指す。 2023年度は、鱗粉形成期特異的にカイコの翅で高発現する遺伝子について蛹期翅で局所的RNAi解析を行った。その結果、鱗粉の生える向きや、光学顕微鏡レベルで判定できる鱗粉の形状、および電子顕微鏡レベルにおける微細構造の異常が引き起こされ、ミクロ・ナノレベルの鱗粉構造を制御する遺伝子を複数特定することに成功した。 さらに、モスアイ構造形成に関与する遺伝子の候補を得るため、モスアイ構造を持つエリサンの蛹期複眼のRNAseq解析を行い、モスアイ構造を持つクジャクチョウの蛹期複眼のRNAseqデータと比較したところ、エリサンとクジャクチョウの複眼では高発現する膜タンパク質遺伝子のレパートリーの類似性が高いことが判明した。また、カイコとクジャクチョウの蛹期翅トランスクリプトームとの比較により、翅と複眼では微細構造形成期に発現する遺伝子が一部共通しているが、異なるものも存在し、微細構造の違いに関与している可能性が示唆された。 また、エリサン複眼におけるRNAi解析に向けて複眼色素合成に関与する遺伝子のsiRNAを用いて局所的RNAiの条件検討を行い、複眼着色の抑制に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カイコ蛹期翅の局所的RNAi解析によって、鱗粉の生える向きや、光学顕微鏡レベルで判定できる鱗粉の形状、および電子顕微鏡レベルにおける微細構造の異常が引き起こされ、ミクロ・ナノレベルの鱗粉構造を制御する遺伝子を複数特定できた。 モスアイ構造を持つエリサン複眼において、局所的RNAiの予備実験に成功した。さらに、エリサンの蛹期複眼のRNAseq解析を実施し、クジャクチョウのデータとの比較から、モスアイ構造制御候補遺伝子群の類似性が高いことが判明し、今後のRNAi解析の方針を立てることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
カイコの翅で鱗粉形成期特異的高発現するその他のOsiris遺伝子群のノックアウトを行い、鱗粉微細構造への影響をFE-SEMで解析する。色素合成遺伝子のsiRNAを用いてエリサンの蛹期複眼における局所的RNAi解析の条件を最適化するとともに、モスアイ構造形成制御候補遺伝子のノックダウンも試みる。
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Causes of Carryover |
購入できたエリサンの頭数が当初の予想より少なく、一部の実験を次年度に行うことになったため、その分の昆虫の購入費用や分子生物学実験用試薬・消耗品は次年度に使用する。
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Research Products
(2 results)