2023 Fiscal Year Research-status Report
Regulation of insect developmental timing by circadian rhythm signaling pathways.
Project/Area Number |
22K05674
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
岩見 雅史 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (40193768)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木矢 剛智 金沢大学, 生命理工学系, 准教授 (90532309)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | カイコ / PTTH / PDF受容体 / 神経活動 / 概日リズム / ノックアウト |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫の幼虫は各齢において十分なサイズに達してから次の齢へと脱皮・変態し、栄養不足などにより成長が遅れた場合には脱皮のタイミングも遅延する。しかし、このように発生タイミングが内外の環境によって適応的に制御される機構の全貌は未だに不明である。昆虫の後胚発生において、脳で作られる前胸腺刺激ホルモン(PTTH)は脱皮・変態のタイミングを制御する最重要因子である。これまでの研究から、脱皮・変態のタイミングを制御するための最重要因子を生合成するPTTH細胞には個体の内外の情報が集約し、その生理特性(興奮性)に反映される機構があること、その制御には概日リズムのシグナル経路が重要であることを見出してきた。よって、PTTH細胞の神経活動の制御機構の解明こそが、昆虫の脱皮・変態タイミングの制御機構の解明に重要である。そこで、PTTH細胞の神経活動が個体の内外の環境に対して適応的に制御機構を、概日リズムのシグナル経路に着目して解明することが本研究の目的でとした。
本年度は、PDF受容体(PDFR)をノックアウト(KO)したカイコガ系統を用いた発生における影響の検討を昨年度に引き続き実施した。本年度は恒明条件下における解析を行ったが、昨年度の明暗条件での解析結果と同様に、PDFR KOカイコは野生型に比べて発生遅延などの明確な表現型を示さなかった。また、PDFR KOの遺伝的背景においてPTTH細胞にGCaMP6fを発現させた系統を用い、PTTH細胞の神経活動の概日リズム解析を行った。発生タイミングの解析結果と同様に、PDFR KO系統に野生型との明確な違いは認められなかった。これらの結果はPDFRのKOに対しては何かしらの補償作用が働いている可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. PDFR KOカイコを用いた恒明条件下における発生の解析 前年度はPDFR KOカイコ幼虫を用いて、明暗条件(12L12D)下における発生の解析を行い、5齢幼虫ではPDFRのKOによる体重・発生タイミングの違いは、ほぼないことを確認していた。そこで本年度は恒明条件下において同様の解析を行った。リガンドであるPDFのKOカイコは、恒明条件下において野生型と比較して5齢後半で有意な体重減少が見られたが、PDFR KOカイコではそのような表現型は認められなかった。また、発生遅延などの明確な表現型も認められなかった。これらの結果は、リガンドであるPDFと受容体であるPDFRそれぞれのKOで表現型が異なることを示している。現在までにPDFR KO系統では野生型との明確な表現型の差は認められていないことから、別の要因による補償作用が働いている可能性が考えられた。
2. PDFR KOカイコにおけるPTTH神経活動の解析 PTTH細胞の神経活動の概日リズムにおけるPDFRの役割を明らかにするために、PDFR KOの遺伝的背景においてPTTH細胞にGCaMP6fを発現させた系統を昨年度樹立した。本年度はこの系統を用い、明確な概日リズムが認められる5齢3~5日の個体におけるPTTH細胞の神経活動をCaイメージングにより解析した。詳細な解析が終わっていないため確定的ではないが、野生型と同様に朝型によく発火し、夕方にはほぼ発火しないといった、活動性の概日リズムが認められた。1.の結果と同様、リガンドであるPDFのKOとは異なり、PDFR KO系統では野生型と明確な差のある結果とならなかったことから、やはり何かしらの補償作用が働いている可能性が考えられた。 上記理由により、おおむね順調に進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ショウジョウバエを用いたPTTH細胞におけるbroad(br)の機能解析 本年度十分に時間を取れず解析が行えなかったbrを介したPTTH細胞の制御機構について今後は注力する。PTTH細胞においてbrをRNAi阻害した個体において、エクジソンシグナリング経路がどのように変化しているか調べ、EcRの下流として機能していることを明らかにする。
2.PTTH細胞の神経活動の解析 PTTH細胞の神経活動や後胚発生における、PDFやPDFRの役割については十分に解析が行えたが、なぜ朝に神経活動が起き、夕方には神経活動が収まるのか、といったPTTH細胞の活動性の根本理解については不明のままである。そこでパッチクランプ法によって、細胞の電位や電流成分の解析を行い、PTTH細胞自身に興奮性の変化が起きているのかといったことを明らかにする。また、PTTH細胞のシングルセル・トランスクリプトームの結果を参考に、PDF以外にどのようなリガンドがPTTH細胞の神経活動を制御しているのか同定する。予想されるリガンドがCa応答を引き起こすものであると予想される場合は、カルシウムイメージングによって検証する。これらの解析によってPTTH細胞の神経活動を制御する神経化学的な経路を明らかにする。
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Causes of Carryover |
カイコの飼育に必要な餌や実験に必要な試薬を節約するなどした結果,少額の次年度使用が発生した。これは試薬等の購入タイミングによるものであり,次年度の予算と合わせて計画通り使用する予定である。
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