2022 Fiscal Year Research-status Report
ニホンカモシカの全ゲノム解読および地理的遺伝構造の解明
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22K05695
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
田中 和明 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (50345873)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
姉崎 智子 群馬県立自然史博物館, その他部局等, 研究員(移行) (50379012)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ニホンカモシカ / ミトコンドリアDNA / 次世代シークエンス / 全ゲノム解読 / 遺伝的多様性 / 系統地理 / 遺伝子マーカー / 群馬県個体群 |
Outline of Annual Research Achievements |
群馬県で収集されたニホンカモシカ標本360個体のDNA抽出を完了した。全個体においてミトコンドリアDNAのd-loop領域の配列を解読し、Gunma-1;からGunma-15までの15種類のハプロタイプに分類した。これらの配列はすでにDDBJを介してLC652839 からLC652849 および LC730806から LC730809のアクセッション番号で公開している。また、先行して取得した、ニホンカモシカのオス1個体(個体番号VM20-03)の全ゲノムのショートリードNGS( 360.5Gbの配列情報)に関して、カモシカ属では、アラインメントに必要なリファレンス配列が存在しないためバイオインフォマテックス支援を受けるために、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設の公募型共同研究「ROIS-DS-JOINT2022」として、DS施設・ゲノムデータ解析支援センターにおいて、Platanusによるゲノムアセンブリを行った。これを、入手可能な生物の中で最も近縁なヤギ(Capra hircus)のリファレンスゲノム (GCA_015443085.1)と比較すると、全体で平均97%の相同性があった。さらに、ヤギゲノムの染色体を参照してコンティグ整列と結合を行い常染色体とX染色体のほぼ全領域に対応することができた。またY染色体では偽常染色体領域およびその近傍に存在するZFYやAMELY遺伝子ではヤギのリファレンスゲノムと高い相同性を持つコンティグ配列が構築できた。次に、mtDNAの分析で関東平野を挟んだ東西地域間で集団構成が大きく異なることに注目し、西側から14個体、東側から11個体の合計25個体(全て雄)のPE150マルチプレックスNGSを行い、総計960 Gb(1個体平均38Gb)の配列データを取得した。この配列情報にいて現在分析を継続している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
群馬県に由来するニホンカモシカの組織標本(360個体)からDNA抽出を行いミトコンドリアDNAのd-loop領域の配列決定を完了した。ミトコンドリアDNAに関しては、2022年度に配列情報を公共データベースに公開済みであり、現在学術論文の投稿準備中である。また、抽出したDNAの品質確認を行った結果、数年間アルコール浸漬の状態で室温保管されていた組織標本(骨格筋)からNGS解析に利用できる高分子DNAが抽出できることが確認できた。これにより研究資源となる標本に問題がないことが示された。さらに、NGSから得られる配列情報の分析について、高度な支援を受けられる体制を整えることができた。具体的には、mtDNAの分析で関東平野を挟んだ東西地域間で集団構成が大きく異なることに注目し、西側から14個体、東側から11個体の合計25個体(全て雄)のPE150マルチプレックスNGSを行い、総計960 Gb(1個体平均38Gb)の配列データを取得した。このデータを分析し、マイナーアレル頻度が東西いずれかの集団で20%を上回る多型を抽出すると、重複する個所での複数多型を含め6,200,442個が検出できた。これらの中には、Y染色体と対応するものが16,937個含まれていた。Y染色体上の多型の中には、(TA)n、(CA)n、(AG)n、(TG)nなどのマイクロサテライト様のものが60か所以上見つかった。このことから、ニホンカモシカの集団構造を解析するためのY染色体上に存在する新規遺伝子マーカーの候補が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
mtDNAの分析結果に基づく学術論文を2023年度内に公開できるよう統計に関わる分析結果の精査を行う。特に、NGSによって取得した26個体のニホンカモシカの完全長mtDNAゲノム配列を用いて系統分析を実施する。遺伝子マーカーの開発では、ゲノムデータ解析から多型を示す染色体由来の遺伝子マーカーとなりうる候補領域を中心に、継続して探索を実施する。今年度は候補領域に存在するマイクロサテライト含むDNA断片を増幅するプライマーセットを設計し、多型性を検証し遺伝子マーカーを開発する。特に、種特異性が高くヤギなど異種で開発された遺伝子マーカーの流用が困難であるY染色体上の新規遺伝子マーカーの開発を優先する。さらに、開発した遺伝子マーカーを用いて地域個体群の遺伝的多様性および群間の系統解析を進める。
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Causes of Carryover |
季節キャンペーンおよびon-line入札システムを利用した物品購入を活用することで当初計画に比べて総額11,894円安く必要な資材等を調達することができた。しかし、2023年度に様々な物品の価格改定(値上げ)が行われているので、次年度使用額は調達コストの上昇と相殺されると見込まれる。
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