2022 Fiscal Year Research-status Report
森林害虫ハバチ類の防除技術開発のための基盤研究:細胞内共生細菌への着目
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22K05732
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
綾部 慈子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70546994)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相川 拓也 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (90343805)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ハバチ / 細胞内共生細菌 / ボルバキア |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は,森林性害虫の代表的グループであるハバチ類において細胞内共生細菌感染の有無を把握し,共生細菌がハバチ繁殖への影響とその機序の解明によって防除技術に繋げることを目的としている。令和4年度は,害虫種から普通種まで多種のハバチを採取し,細胞内共生細菌 (Wolbachia, Cardinium) の感染についてPCR法(ftsZ, wsp, 16Sのプライマーを使用)を用いて確認した。 これまで寄主植物27種から合計4科38種のハバチを採取した。このうち,産雌性単為生殖もしくはオスが未知である種は2種のみであり,残り36種は雌雄ともに存在する種であった。共生細菌の感染有無について,現在14種の診断を終了し,4種で3つのプライマー全てで感染を示す結果が得られた。これら4種は,全て両性が存在する種であり,ノイバラの害虫として知られるアカスジチュウレンジやトウヒ類の害虫のオオアカズヒラタハバチが含まれた。このハバチにおいて,共生細菌が感染系統と非感染系統間の受精卵における細胞質不和合を引き起こす場合, 非感染系統の作出によって繁殖攪乱を生じさせることが可能となり,農薬を使わない低環境負荷の防除技術開発につながる可能性が示唆された。 また,一部の種で飼育を試みた。生態が不明な種は,蛹化させるのに失敗するなど,累代飼育に結びつけることは難しかった。生態が判明している種であっても,蛹化環境が特殊な場合や年1化の種は飼育に困難を伴った。これらの飼育試行により,次年度以降,累代飼育が期待できるハバチ種の選定に有用な知見を得るとともに,生態が不明なハバチ種においては,その乏しい生態情報を補強する知見についても得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採取したハバチのうち,一部の種では細胞内共生細菌のPCR診断が完了していないものの,DNA抽出作業は完了しており,次年度の試料と合わせて適宜遂行可能な状況にある。そのため計画通りに研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続き,害虫種から普通種まで多種のハバチを採取し,細胞内共生細菌 (Wolbachia, Cardinium) の感染についてPCR法を用いて確認する。また,ハバチ種の系統樹作成の準備として,複数のプライマーを用いてDNA抽出とシーケンスを試みる。共生細菌が確認されたハバチ種のうち,森林害虫種を対象とし,飼育系の確立および感染除去系統の作出を試みる。
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Causes of Carryover |
ハバチの採集及び学会参加を見込んで旅費を計上した。これに対し,試料を送付によって得ることができたり,公共交通機関ではなく事業用車を使用してハバチ採集へ行く機会が多くあった。また,学会がオンライン開催となったため交通費の使用が生じなかった。これらの理由により,旅費の使用が予定額よりも少なかった。次年度はハバチ採集の旅費や学会参加に使用予定である。 物品費については,サンプル処理数が予定よりも少なく,消耗品や薬品類の購入が抑えられたことから,次年度の物品購入のための使用を予定している。また,次年度はDNAシーケンスを行うため,その外注費用に加え,サンプル処理数の増加やハバチ飼育に人手が必要なことから,人件費としても使用予定である。
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