2022 Fiscal Year Research-status Report
微生物を含めた環境トレーサーで古生層山地小流域における斜面地下水動態を探る
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22K05733
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
細田 育広 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60353843)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 古生層 / 寡雨 / 古細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
水文観測を開始するとともに、出水時の変動を評価するための準備として、対象流域における微生物情報の基底的状態の確認を主としておこなった。山麓露場における2022年の降水量は、過去86年間で8番目に少ない800mm台の寡雨年となった。このため表層土壌水分は、斜面上部(#1)では6月以降概ね-100kPa以下で推移し、10月中に斜面中部(#2)で-200kPaまで、斜面下部(#3)でも-70kPaまでそれぞれ低下した。斜面地下水位は、7月末から観測を開始した#3では大きな降雨イベントに際して上昇がみられたが、#1では地下水面が現れることなく、通年地下水面が維持されることの多い#2でも降雨に対する反応が徐々に小さくなり、11月下旬には観測井の底以下となった。流域の乾燥が進む経過の中で盛夏の8月中旬に採取した#1-3における表層土壌および観測井の底土、斜面山脚湧水点表土、および量水堰堤直上の渓流水の細菌叢解析の結果、古細菌の組成率は#1井戸底土と渓流水で10%前後と他の試料に比べて2倍以上多かった。#1井戸底ではアンモニア酸化・中温タイプと比定されるクレン古細菌、渓流水ではクレン古細菌への寄生に特化したとされるナノ古細菌が主体という違いが認められた。前者は井戸底を含めた土の古細菌の主体をなす一方、後者は#3井戸底土および湧水点表土でもわずかに出現した。さらに流域の乾燥が進んだ11月下旬の流域内数地点の渓流水からも同目のナノ古細菌が3%以上の組成率で検出され、上流ほど組成率が高い傾向が認められた。ほぼ止水状態の山脚湧水における組成率はわずかであり、地下水が渓流中に流出している場合にナノ古細菌の組成率が高くなる可能性が示唆された。出水時の動的な条件下で組成率の変動が確認できれば、斜面地下水動態を探る有効な手がかりを得られるものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
寡雨年となり、地下水位が観測井の底以下となったため、出水に対応した試料採取はできなかったが、出水時の渓流水質の時間変動を降雨-流出過程の観点から評価するためには、基底的状態での値と空間分布を知る必要がある。また、微生物情報については本研究分野においてこれまであまり対象とされていないため試料採取方法や容器具に関する情報が極めて乏しい。これをルーチン化し、基底的な状態での流域内における空間分布を取得し、採取の容器具や方法に関しても目途がついた。水文観測データの安定的な取得を図ることもできたので、2年目以降本格化を予定している出水時の変動評価のための準備が整ったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
流域および斜面の水文観測を継続するとともに、出水時における試料を採取し、機器分析で得られる情報と降雨-流出過程との関連性を検討し、対象流域の斜面地下水動態の推定に適した環境パラメータおよび解析法を見出す。
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