2022 Fiscal Year Research-status Report
温暖化した多雪山地で起こるブナ稚樹の開芽日のミスマッチと進化的応答
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22K05741
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
石田 清 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (10343790)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石田 祐宣 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (60292140)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 開芽日 / 晩霜害 / 気候温暖化 / 開芽積算温度 / ブナ / 自然選択 / 進化 / 遺伝率 |
Outline of Annual Research Achievements |
青森県八甲田山の標高と晩霜体制の異なる5地点に生育するブナ集団を対象に、標高の異なる3植栽試験地(低標高植栽試験地、中標高植栽試験地、高標高植栽試験地)で栽培実験と開芽観察を行い、稚樹の開芽積算温度に作用する自然選択の要因とその強度を分析した。その結果、ブナの分布下限よりも標高が低い場所に設定した低標高植栽試験地において、開芽日の早いブナほど晩霜害の発生確率が高くなる傾向が認められた。低標高植栽試験地での産地ごとの晩霜害の発生確率についてみると、開芽が早い低標高産のブナ稚樹が晩霜害を被りやすい一方で、開芽が遅い高標高産と盆地産のブナ稚樹は晩霜害を被りにくいことが明らかとなった。先行研究により、ブナの開芽日の遺伝率は高いことが示されていることから、低標高のブナ集団では気候が温暖化した気候条件下で晩霜害による自然選択が生じ、その結果として次世代においてより大きな開芽積算温度(遅い開芽時期)が進化する可能性が示唆される。また、温暖化による開芽積算温度の変化の産地間差についての分析を行い、開芽直前期の日長条件がこのような表現型可塑性の産地間差に関与していることを明らかにした。さらに、温暖化した環境下でのブナ稚樹の開芽積算温度の遺伝率を推定するため、八甲田山に生育するブナ5集団のそれぞれについて15~20母樹から種子を採取し、低標高植栽試験地で栽培実験を開始するとともに、開芽日の観察と気温の観測を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
青森県八甲田山のブナ集団を対象に、標高の異なる3植栽試験地で栽培実験と開芽観察を行った結果、低標高のブナ集団において温暖化した気候条件下で晩霜害による自然選択が生じ、その結果として次世代においてより大きな開芽積算温度が進化する可能性を示すことができた。また、温暖化した環境下でのブナ稚樹の開芽積算温度の遺伝率を推定するための栽培実験を開始した。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降についても青森県八甲田山の標高と晩霜体制の異なる5地点に生育するブナ集団を対象にした栽培実験と開芽観察を継続し、稚樹の開芽積算温度に作用する自然選択の要因とその強度を分析する。また、温暖化による開芽時期や開芽積算温度の変化の産地間差についてのより詳細な分析を行う。さらに、八甲田山に生育するブナ5集団から採取した種子を用いた栽培実験を継続し、温暖化した条件下での開芽時期の遺伝率とその産地間差を推定する。
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Causes of Carryover |
今年度に予定していた八甲田のブナ生育地における気象観測を次年度に実施することとしたため次年度使用額が生じた。このため、次年度使用額は気象観測のための機器購入や分析に用いる消耗品費等にあてる。
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