2022 Fiscal Year Research-status Report
スギ樹皮に含まれる機能性抽出成分の総合的利用に関する研究
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22K05759
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
小藤田 久義 岩手大学, 農学部, 教授 (40270798)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スギ / 樹皮 / 抽出成分 / テルペン / ポリフェノール |
Outline of Annual Research Achievements |
樹皮は重要なバイオマス資源のひとつであり、原木丸太の製材副産物として排出されるが、高い商品価値を生み出すような成分利用法は見出されていない。特に生産量の多いスギの樹皮には有用な抽出成分が多く含まれることが明らかにされており、それらを利用するための効率的な分離回収法の開発が望まれている。本年度は、粉砕樹皮を流動パラフィンおよび熱水の混合溶媒を用いて抽出する手法(複相抽出処理)を行うことにより、親油性成分であるテルペンと親水性成分であるポリフェノールを同時並行的に分離回収することを試みた。また、回収した抽出液を用いて繰り返し処理を行う戻し複相抽出処理の効果についても検討した。 複相抽出処理によるパラフィンおよび熱水抽出物の乾燥樹皮に対する収率はそれぞれおおよそ5%および10%前後であった。パラフィン抽出物の主成分はジテルペン類であり、熱水抽出物の主成分はフェノール類および可溶性糖類と推測された。トヨパールHW40により分離されたプロシアニジン量を調べたところ、乾燥樹皮1kgあたりの換算収量は約10gであった。また、熱水抽出物から得られる糖類は乾燥樹皮1kgあたり約30gであった。さらに、戻し複相抽出処理により得られる各抽出液の濃度を一回のみの処理と比較すると、抽出処理を繰り返すことによってパラフィン抽出物および熱水抽出物濃度がそれぞれ処理回数に応じて上昇した。以上より、複相抽出処理を行うことにより、スギ樹皮から主要テルペン類およびプロシアニジン類を一括して抽出できることが明らかとなった。本処理法では有機溶媒であるパラフィンの損失が抑えられることから抽出液の再利用(戻し複相抽出処理)も可能であり、スギ樹皮に含まれる有用成分の実用的な分離回収法となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の各項目の実施に先立ち、スギ樹皮の成分組成についての検証を実施することによりロットの異なる試料であっても成分組成が類似していることが再確認された。本データは今後の研究の前提とされる重要な成果となる。 次いで、複相抽出処理の有効性に関する検討では、分離対象成分であるテルペン、ポリフェノール、可溶性糖類のいずれも本処理法を適用することで高選択的に分離回収可能であることを明らかにした。しかしながら、各成分の収率的には改善の余地があると思われ、今後の検討課題である。戻し抽出処理の効果については当初の期待通り処理回数に応じた各成分の濃度増加が確認され、本処理法は実用化に向けての改良法の一つとして採用すべき手法であることが分かった。 次年度以降は以上の研究成果に基づいてより高収率かつ簡便な手法の開発を進めるとともに、得られた各画分からの有用成分の精製および用途について検討していく必要があるが、本研究課題における初年度の成果としては概ね順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
スギ樹皮に含まれる有用成分の分離回収法についての改良を行う。具体的には複相抽出処理における非極性相として用いるパラフィン系溶媒の種類について再検討するとともに、熱水抽出液に含まれるポリフェノールの分画・回収方法の見直しを試みる。さらに、複相抽出処理によって得られるパラフィン抽出液から有用テルペノイドを分離するための方法として、従来の加溶媒蒸留法を改良した加溶媒水蒸気蒸留法の適用を検討する。従来法との違いは、溶媒を沸騰させずに過熱水蒸気を通気して移動媒体に用いる点である。本方法により、複相抽出で得られるパラフィン画分から溶媒をロスすることなくテルペン類を分離回収できるものと期待される。さらに通気する水蒸気の温度を最適化することにより、精油とジテルペン類を分別して蒸留することが可能と考えられる。 一方、分離回収された成分の用途に関しては、スキンケア関連の機能についての検討を行う。スギ樹皮の抽出成分には抗酸化作用などの活性を持つものが多いことから、抗酸化に関連するスキンケア関連作用として抗糖化活性に着目して検討を行う。糖化はタンパク質と糖のメイラード反応により引き起こされる現象で、コラーゲンの変性などの皮膚の老化に深く関わることが報告されている。次年度はアルブミンとフルクトースを用いる抗糖化アッセイ系を用いてスギ樹皮成分の抗糖化活性を評価する予定である。
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