2022 Fiscal Year Research-status Report
マクロタイダルな河川感潮域は海域への主要な栄養塩供給ソースの1つになるか?
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22K05784
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
速水 祐一 佐賀大学, 農学部, 准教授 (00335887)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高巣 裕之 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 助教 (00774803)
小森田 智大 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (10554470)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 河川感潮域 / エスチュアリー / 酸素消費 / 物質循環 / 栄養塩 / 有明海 |
Outline of Annual Research Achievements |
有明海奥部に流入する1級河川である六角川の河口沖から河川感潮域にかけて,夏季・秋季・冬季に各1セットずつの現地調査を実施した.各セットの調査は,大潮・小潮に各1回実施する水質断面観測と,ADCPを用いた12時間連続観測からなる.また,六角川感潮域の1カ所に自記記録式の水質計を設置し,水温・塩分・濁度・クロロフィル蛍光,溶存酸素濃度の連続観測を行った.水質断面調査では,多項目水質計による表層から海底までの水質分布測定を行うと共に,表底2層で分析用の採水を行った.採水試料については,栄養塩・クロロフィルa・粒状態有機炭素窒素濃度,炭素窒素の安定同位体比,アミノ酸含有量と組成の測定に供した.9測点のうち3点では実験用の試水と底泥コアを採取し,実験室に持ち帰り,海水と底泥による酸素消費速度,栄養塩回帰速度測定のための培養実験に供した. 縦断線に沿ったDIN濃度は夏季に低く,冬季に高かった.秋冬季には,上流側ほどDIN濃度が高くなる傾向が見られた.水による酸素消費速度は,夏季と冬季に大きく,秋季に少なかった.測点間で酸素消費速度を比べると,最上流の測点R9底層で大きかった.大潮と小潮を比較すると,上流側の測点R6・R9底層において,大潮時に特に高い酸素消費が観測された.底泥による酸素消費は,夏季に大きく,冬季に小さかった.測点間の違いは水に比べると小さかった.水中のDINの回帰速度は,夏季に大きく,冬季に小さくなる傾向があった.底泥からのDINの回帰速度も,夏季に大きく,冬季に小さくなる傾向にあった.秋冬季の小潮時の実験では全ての測点でDINの回帰量は負の値となった.その他の水質サンプルについては現在分析中である.12時間連続観測はトラブルのために夏・夏季には十分なデータが得られず,3月の調査でやっと手法を確立することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地調査については,当初計画通り8月に夏季の観測,11月に秋季の観測,2月に冬季の観測を実施した.各観測は大潮・小潮時の水質断面観測と12時間連続観測からなる(冬季の12時間連続観測は3月に実施).また,佐賀県有明水産振興センターの協力を得て8月に係留観測を開始し,現在も継続中である.各水質断面観測の後には,観測で得られた試水・底泥を用いて培養実験を行い,酸素消費速度・栄養塩回帰速度を求めることができた(11月の底質からの栄養塩回帰速度のみ欠測). ただし,2022年度は記録的な渇水であったため,元々実施予定であった夏季の河川流量が比較的多い場合における調査データが得られなかった.また,夏季の調査については機器トラブルのため,秋季の調査についてはノリ漁船の往来が増えて12時間連続の観測を実施するには危険になったため,ADCPを用いた12時間往復観測が完遂できなかった.さらに,粒状態有機炭素窒素濃度・窒素炭素安定同位体比・アミノ酸の分析が遅れており,まだ未分析のサンプルが残っている.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に引き継いで六角川感潮域に関する調査研究を2023年度まで続ける.2023年度秋季から2024年度夏季については,筑後川感潮域を対象に調査研究を実施する. 六角川感潮域に関しては2023年8月末まで係留観測を続ける.2023年の5月と8月の大潮と小潮には合計4回の水質縦断観測を行うと共に、観測で得た試水・底泥を用いた培養実験を実施する。培養実験では酸素消費速度と栄養塩回帰速度を求める.観測で得た試水については、栄養塩・粒状態有機炭素窒素・窒素炭素安定同位体比・アミノ酸について、2022年度中に得たサンプルと合わせて2023年度中に分析を終えたい。また,8月には六角川河口においてADCPを用いた12時間の往復観測を行い,1潮汐間の正味の栄養塩輸送量を求める.水質縦断観測と培養実験の結果については,2023年度中に学会発表をすると共に,論文として投稿する.12時間の往復観測の結果についても,別途論文として投稿したい. 筑後川感潮域に関しては,2023年11月から1年間,係留系を設置して水温・塩分・濁度・クロロフィル蛍光,溶存酸素濃度の連続観測を行う.2023年11月,2024年2月,5月,8月の大潮・小潮には合計8回の水質縦断観測を行うと共に,観測で得た試水・底泥を用いた培養実験を実施する.培養実験では酸素消費速度と栄養塩回帰速度を求める.観測で得た試水については六角川と同様の項目について分析する.さらに2024年3月と8月には筑後川河口においてADCPを用いた24時間往復観測を行い,1潮汐間の正味の栄養塩輸送量を求める.これらの調査結果については,2024年度中に学会発表すると共に,論文として投稿したい.
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Causes of Carryover |
研究計画当初は,六角川感潮域の現地観測については,2022年度夏季~2023年度春季までの期間に実施する計画であった.しかし,2022年度は例外的な渇水のために夏季の河川流量が多い時期の観測を実施することができなかった.そのため,観測時期を2023年度夏季まで延長して実施することとした.また,2022年度に採取した分析サンプルのうち,一部については2022年度内に分析を終えることができず,2023年度まで持ち越すこととなった.こうした状況によって,2022年度予算の一部を次年度使用額として繰り越した. 繰り越した予算は,2023年度予算と合わせて,2023年度春季・夏季の六角川感潮域の現地観測と,2022年度と2023年度の観測で採取したサンプルの化学分析を行うために使用する.さらに,2023年度予算については筑後川感潮域の現地観測,及び観測で得たサンプルの分析,学会発表経費・旅費等に使用する計画である.
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