2022 Fiscal Year Research-status Report
異なる生活史段階を考慮した固着性動物の環境DNAによる検出・定量手法の確立
Project/Area Number |
22K05787
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
広瀬 雅人 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (10809114)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | コケムシ / 環境DNA / 生活史 / 休眠期 / 海面養殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,コケムシ類を中心とした固着性動物を対象とした水槽実験と実海域調査により,それらの分布や生活史と環境DNAによる検出量との関係を明らかとし,より簡便な調査手法の確立につなげることで,多様な環境における固着性動物の現存量推定を可能にすることを目指す. 本年度は,岩手県沿岸域において試験板と養殖ホタテに付着したコケムシ2種を対象に種特異的なプライマーとプローブを作成し,採水・採泥試料からの環境DNAによる検出の有無や実際の付着量との関係を調べた.その結果,付着量が多い時期には検出率も上がったが,付着量が少ない時期や採水地点が付着地点から100 m以上離れた場合には結果が安定しなかった.採泥試料からは付着量が減少した後に検出されたことから,脱落した死骸による検出の可能性が示唆された. 休眠期に着目した実験においては,オオマリコケムシの休芽を入れた休芽水,およびそれらの休芽が発芽した後の初虫水を分析した結果,休芽水においても初虫水同様に本種が検出された.この結果から,休眠期であっても環境DNAによる検出が可能であることが明らかとなった.また,コモチカエデコケムシを用いた同様の実験においても,休眠期である芽体の状態で本種が検出された.本種については沖縄県名護市においてSCUBAによる採水と採泥も実施した結果,休眠期の8月には採水試料から本種は検出されなかったが,群体出現期の11月には本種が検出された.一方,採泥試料からは11月においても本種は検出されなかった.これは,本種の分布がパッチ状であるためと考えられる. さらに本年度は,浄水器のプレフィルターを改良したフィルターケースを水中ポンプと真空ポンプの間に接続した採水装置を用いて,環境DNAを効率良く採取・検出する方法を検討した結果,大量の環境水を現場で直接フィルターに濾過でき,その後の解析も正常に実施できることが確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた対象種のプライマーおよびプローブの設計,休眠期と活動期の生物試料を用いた水槽実験,野外における生息状況と採水試料に基づく解析結果との比較を実施することができた.また,大量の環境水を採水現場で直接濾過する方法についても,新たな採水装置の採水試験を実施し良好な結果を得ることができた.さらに,計画当初は予定していなかった採泥試料についても解析することができた. これらの点から,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に実施した野外調査と同様の調査をコケムシ以外の固着性動物を対象として実施する.また,同様の調査を他海域においても実施し,本研究の結果の普遍性を確認する. 本年度は対象種の環境DNAによる検出の有無の確認を優先したため,検出結果の定量までには至らなかったことから,次年度以降はそれぞれの条件下における定量を行っていく.これにより,環境DNAの検出量から生息規模を推定する方法を検討する. 新たに作製した採水装置については,フィルターケースへの流量の調節を可能にするなどして,より安定且つ簡便な採水方法の確立を目指す.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:研究に使用する機材と試薬,交通手段,および調査期間に変更が生じたため. 次年度使用額の使用計画:次年度の野外調査旅費に当てるとともに,新たな実験に使用する飼育機材および試薬類の購入に使用する予定である.
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