2023 Fiscal Year Research-status Report
浮遊性微細藻類に着目した海洋低次生態系におけるメチル水銀生物濃縮過程の解明
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22K05796
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Research Institution | National Institute for Minamata Disease |
Principal Investigator |
多田 雄哉 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 主任研究員 (40582276)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑田 晃 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(塩釜), 主幹研究員 (40371794)
丸本 幸治 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 室長 (90371369)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 海洋浮遊性微細藻類 / メチル水銀 / 水銀 / 生物濃縮 / 親潮域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2023年5月に北光丸による親潮域海洋観測に参加し、親潮域-親潮・黒潮混合域を跨ぐ5つの観測点から、異なるサイズフラクション(0.2、2、20、180 マイクロメートル)のプランクトン試料並びに海水試料を取得することができた。この内、3測点(Sts. A01、A09、A17)の試料に対して、水銀・メチル水銀分析、並びに18S rRNA遺伝子を用いた浮遊性微細藻類群集構造解析を実施した。水銀・メチル水銀分析の結果、親潮域における海水中メチル水銀濃度は、1.14-1.96 fMの範囲で変動し、混合域(St. A09)で若干低くなる傾向が見られた。プランクトンのメチル水銀濃度は0.2-1.9 pg / mg (dry)で変動し、さらに分配係数については5000-48,000 L / kgの範囲で変動し、プランクトンサイズが増大するに従って増加する傾向が見られた。また、全てのサイズ画分において、南方 (St. A17) の測点でメチル水銀濃度および分配係数(生物濃縮)が高くなる傾向が見られたことから、水塊によってメチル水銀濃縮率が変化することが明らかとなった。また、18S rRNA遺伝子を用いた群集構造解析の結果、特に親潮域の測点(St. A01)の>180 マイクロメートル画分では珪藻(Bacillariophyta)が優占(全体の約80%)していたのに対し、混合域の測点(Sts. A09、A17)では減少し(15-19%)、渦鞭毛藻(Dinophyceae)や繊毛虫(Spirotrichea)の割合が増加した。これらのことから、親潮域から混合域にかけて浮遊性微細藻類の群集構造が変化することに伴ってメチル水銀の生物濃縮が変化することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R5年度は北光丸による研究航海に参加することができ、親潮域および親潮-黒潮混合域を跨ぐ5観測点における水銀・メチル水銀試料、微細藻類群集構造解析用試料を取得することができた。海水中並びにプランクトン中の水銀・メチル水銀の分析の結果、水塊やプランクトンサイズによってメチル水銀の分配係数が変化することが明らかとなった。特に、クロロフィルa量が高い親潮域のプランクトン試料と比較し、クロロフィルa量が低い混合域におけるプランクトン試料中の単位重量当たりのメチル水銀濃度が高かったことから、親潮域においてはBiodilutionが起こっている可能性も示唆された。また、微細藻類群集構造解析の結果、観測点間で微細藻類の群集構造が変化していたことから、微細藻類群集構造もメチル水銀の生物濃縮過程に対して重要な影響を及ぼす可能性を示すことができた。特に、本研究で得られたメチル水銀の生物濃縮率に関する定量データは、好漁場である親潮域における海洋低次生態系へのメチル水銀移行過程を明らかにする上で重要な知見であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
R6年度は、親潮域における残りの2観測点の水銀・メチル水銀分析および群集構造解析を進めると同時に、同時期の海水から得られた異なる珪藻培養株(Thalssiosira nordenskioeldii、Chaetoceros debilis、Neodenticula seminae)についてメチル水銀添加培養実験を実施し、溶存態並びに粒子態水銀分析を実施することで、異なる珪藻種に対するメチル水銀分配係数を明らかにする。また、これらの培養株に対して、異なる形態のメチル水銀(塩化メチル水銀並びにシステイン結合型メチル水銀)を用いた培養実験、また、培養液中栄養塩濃度比(窒素:リン比)を変化させる培養実験も実施し、それぞれの培養株に対して、栄養塩状態の変化がメチル水銀の分配係数に与える影響を評価する。また、得られた研究成果を2024年度日本地球化学会において発表する。
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Causes of Carryover |
R5年度は、親潮域で取得した海水試料とプランクトン試料中の水銀・メチル水銀分析並びに18S rRNA遺伝子を用いた微細藻類群集構造解析を実施し、水塊やプランクトンサイズによるメチル水銀の生物濃縮の違いを明らかにすることができた。一方で、微細藻類株を用いたメチル水銀添加培養実験に関して、現場海水からの複数珪藻株の単離培養はできたが、これらを用いた培養実験(予備実験も含めて)を実施するまでには至らなかったため、次年度への研究費の繰越が生じた。R6年度では、3種の珪藻株を用いたメチル水銀添加培養実験を実施し、溶存態並びに粒子態水銀分析を実施することで、異なる珪藻株における細胞中メチル水銀蓄積量並びに分配係数の違いを明らかにする。
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