2022 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of the impacts of environmental fluctuations and commercial catches of small pelagic fishes on a coastal ecosystem for developing sustainable fishery management strategies
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22K05804
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
清田 雅史 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (10371931)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 安定同位体比分析 / 漁業モニタリング / 海洋環境 / 中位栄養段階 / 生態系連結性 |
Outline of Annual Research Achievements |
閉鎖的な大村湾に対する外洋(五島灘)からのカタクチイワシの移入量が生態系の構造や生産性および漁業に対して影響を及ぼしているという仮説を検証するため,1)湾口付近の漁業を利用して湾内移入の時期と量を推定する方法を検討し,2)移入量と湾外の要因の関係性や3)移入が湾内漁業生態系に及ぼす影響について解析した。 1)湾口付近の地曳網で採集されるカタクチイワシ筋肉中の安定同位体比を分析し,その月変化を湾央部および外洋と比較した。湾央では炭素同位体比が5月から11月にかけて緩やかに上昇するのに対し,炭素同位体比は6月から9月に急上昇した。湾口部のカタクチイワシの窒素同位体比は12月から2月は高い値で推移したが,3,4月には低下し,5月に再び高くなった。炭素同位体比は冬季の12月から3月頃は高い値で推移し,3月から5月にかけて低下した。湾外のサンプルを含めた安定同位体比データによる判別分析や,湾内外の水温の月別変化を併せて総合的に判断すると,湾口部で漁獲されるカタクチイワシは,12月から2月の間は湾内からの移出,3月から7月の間は湾内への移入を表すと考えられた。 2)2007年から2019年の3月から7月のうち湾内水温が湾外よりも高い期間の1日あたり平均漁獲量を移入量指標と見なして,五島灘の環境要因(表面水温,クロロフィル量,風応力)と資源状況(前年の0歳魚の加入量),漁獲状況(北松地区の漁獲量)との関係を一般線形モデルを用いて解析した。その結果,北方向と東方向の風応力と前年の加入量が移入量の増加要因と推定され,湾外と湾内の生態系の連結性が示唆された。 3)カタクチイワシの来遊量と大村湾の漁業との関係について予備的な解析を行った結果,2008年から2018年のカタクチイワシの移出量指標値とカタクチイワシを除く魚類,底魚類,マアジ類の年間漁獲量の間に有意な正の相関が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の研究により,カタクチイワシを媒体とした湾内,湾外の環境,生態系や漁業の関連性を解き明かすための基本的な指標を開発し全体的な関係性を捉えることができた。大村湾内で採集されたカタクチイワシの窒素・炭素安定同位体比を月別に分析した結果から,どちらの値も5月から8月にかけて上昇にする明瞭なパターンが確認され,浅海域における底層性植物プランクトン由来の基礎生産や,嫌気的環境における脱窒作用の重要性といった生態系の特性を確認することができた。そのような湾内の安定同位体特性を湾口と湾外のサンプルと比較することによって,当初想定していたよりも複雑なカタクチイワシの移出入パターンが明らかになった。 この結果に基づき,湾口で定点操業を毎日行う地曳網漁業をモニタリングすることにより,カタクチイワシの移入量,移出量の指標が得られることを確認できた。移入量は湾外の海洋環境や資源状態の影響を受けていることが確認され,湾内生態系は湾外の環境や資源,漁業と関連していることが示唆された。さらに湾内漁業におけるカタクチイワシ以外の魚種の漁獲量が,湾内に移入して夏を過ごした後冬季に湾外へ出ていくカタクチイワシの移出量と関係していることが示唆された。 また,湾内外のカタクチイワシのサンプルの調達と分析に関しては,水産・研究教育機構,長崎県水産試験場,長崎大学水産学部水圏微生物・生態系研究室などの機関と連携協力関係を築きながら進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
カタクチイワシの大村湾の移出入メカニズムについて,水温環境や潮流などの環境要因や既往の生物学的特性を含めて解釈し定式化を行い,大村湾生態系への物質の移出入を表すモニタリング指標として確立する。その結果に基づき初年度に実施できなかった学会発表や論文発表に取り組む。 カタクチイワシの移入量や移出量が湾内生態系に及ぼす影響を明らかにするために食物網を再現できる生態系モデルの開発に着手する。モデル構築のための基礎情報として,まず,湾内の生物試料の胃内容分析や安定同位体比分析を行い,生態系構成種間の捕食・被食関係をデータ化する。大村湾の独特な低次生産構造を考慮して基礎生産量を推定する方法を検討する。 湾内漁業についても,漁業種類別の時系列情報を掘り起こして数値データ化する。さらに,データプア種のための資源解析手法を応用して漁獲量の時系列データから過去の資源量を推定し,それを生態系モデルに取り込み過去から現在までの生態系の変遷を復元する方法を検討する。
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Causes of Carryover |
消耗品の価格変動により若干の残額が生じた。次年度の消耗品費として使用する計画である。
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