2022 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of visual communication for cephalopods by histochemical and ethological analysis of synchronization mechanism of body pattern
Project/Area Number |
22K05809
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
杉本 親要 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 助教 (00813718)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 頭足類 / ダンゴイカ / ボディーパターン / 模倣 / 同期 / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イカやタコを含む頭足類が、高度に発達した脳や眼、神経制御可能な無数の色素胞といった情報処理機構を獲得するに至った背景を明らかにするため、社会的相互交渉の複雑化をその要因の一つと仮定し、それを支えるコミュニケーション能について解明することを目標としている。そこで、イカ類とタコ類の中間的な系統的地位を占め、両方の生態的特性を有するダンゴイカ類をモデルとし、色素胞動態の組織化学的および行動学的解析から体色同期機構の詳細を調べることで、頭足類の視覚コミュニケーションの成立過程を明らかにすることを目的とする。 この目的を達成するため、体色信号の評価と体色同期機構の分析という2つの研究項目を実施する。本年度は、研究対象種として、ダンゴイカ類の中でも小型で、野外採集が容易なヒメダンゴイカを選定し、一つ目の項目を進めた。沖縄島周辺海域で採集された本種を当該研究実施場所まで移送する際に、魚類などで通常用いられる方法では死亡したり衰弱したりすることが多かったため、移送方法の改良を進め生残率の向上を図った。これらの個体について、飼育実験を進め、攻撃時や防衛時といった様々な状況において表出されるボディーパターンを記録・分類したところ、縞や斑紋などのパターンは認められず、背側外套部や腕部といった部位ごとに全体の色素胞の開閉をするパターンが多いことが明らかになった。また、飼育実験の終了後、海水エタノール麻酔下や安楽死に至る過程において、全身の色素胞配列を表皮上部から撮影・記録した。外套膜背側と腹側では、反射細胞の分布密度、白色素胞のパッチ状集合、黒や茶色素胞の分布パターンに明瞭な差が認められるとともに、頭部腹側や腕部では、反射細胞が乏しい様子が明らかとなった。これらの知見は、今まで知られていない新たな事実であり、ボディーパターン研究を深化させる上で、重要な基礎データとなる意義を有する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究対象種を採集場所から研究実施場所へ移送する過程で、死亡したり衰弱したりする状況が発生したものの、移送方法の改良を試みることで、生残率の向上を確認することができた。また、2つある研究項目のうちの第一段階について、基礎的なデータの整備を進めることができた上、次に予定されている表皮の組織化学的分析のためのホルマリン標本を集めることができた。このように、今後の研究段階を進めていく上での、必要なプロセスを順調に消化できている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、一つ目の研究項目である体色信号評価について、行動データのさらなる蓄積と組織化学データの取得を行い、研究対象種が表出可能な体色信号の要素を検出するため、体色時系列解析を実施する。また、2つ目の研究項目である体色同期機構の分析に必要な実験個体の対面実験も実施することで、体色の位相同期解析のためのデータ取得も進めていく。さらに、色素胞分布に関する組織化学データが取得でき次第、論文としての取りまとめも進める。
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Causes of Carryover |
本年度に購入を予定していた行動解析用パソコンについて、本年度で取得したデータは現有のパソコンで対応できたことから、次年度での購入予定に変えたため使用計画に変更が生じた。また、動画解析ソフトウェアについても、計画段階より後に発売された新たなソフトについて検討するため、本年度での購入を見送った。次年度は、これらパソコンと動画解析ソフトウェアの購入を使用計画に含めるが、それ以外は研究計画時のプラン通りに予算使用を進める。
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