2023 Fiscal Year Research-status Report
魚類には「ない」遺伝子の導入による魚類由来培養細胞株の老化耐性メカニズムの解明
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22K05818
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
二見 邦彦 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00513459)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片桐 孝之 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (50361811)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | PMLボディ / 炎症性SASP / SA-β-gal活性 / 魚類細胞 / 細胞老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類由来の正常二倍体細胞と異なり,魚類由来の細胞は通常培養下において老化しにくいことが知られている。これまでに,魚類ゲノムにp16遺伝子が欠如していることが魚類細胞の老化耐性の一翼を担っていることを明らかにしたが,その他の要因については不明であった。羊膜類の細胞において,PMLタンパク質は核内構造体PMLボディの形成を誘導する。PMLボディには老化に関わるタンパク質やクロマチンが集まり,それらの機能が調整されることで細胞老化を引き起こすと考えられている。特にスプライシングバリアントの一つであるPML-Ⅳは,PMLボディによる細胞老化の誘導において必要不可欠なものとなっている。しかし,魚類のゲノムにはpml遺伝子が欠如しており,魚類細胞にPMLボディは形成されない。そこで,本研究では,魚類細胞におけるPMLボディの欠如との老化耐性との関連について明らかにすることを目的とした。 ファットヘッドミノー上皮由来のEPC細胞に,赤色蛍光タンパク質mCherryをC末端側に融合させたヒトPML-IV遺伝子をトランスフェクションした。その結果,細胞の核にPMLボディ様のまだら模様の構造が観察された。これらの細胞は増殖抑制を示し,細胞老化に特徴的な大型で扁平な形態を呈し,さらに早期老化のマーカーであるSA-β-gal活性が上昇した。また,炎症性SASP因子の発現増加が見られ,PMLボディの欠如と老化耐性との関連が示唆された。しかし,炎症性SASPの転写因子であるcebpbの発現や,NF-κBの活性は増加しなかった。これらのことから,エピジェネティックな制御機構が,PML NBによる炎症性SASPの誘導に寄与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らはこれまでに,魚類ゲノムにp16遺伝子が欠如していることが魚類細胞の老化耐性の一翼を担っていることを明らかにした。令和4年度に,ヒトp16遺伝子とファットヘッドミノーras遺伝子のドミナントネガティブ変異体(rasN17)を魚類由来培養細胞株EPCに共導入し,完全老化誘導が阻害されるかを試みた。しかしながら,p16とrasN17を共発現する安定発現株の作製が困難であり,p16によって誘導される完全老化にRasの活性化が必要かどうかについては明らかにできなかった。 そこで令和5年度では,p16の欠如以外の別の要因として,魚類細胞における核内構造体PMLボディの欠如に着目した。羊膜類では,老化に関わるタンパク質やクロマチンがPMLボディに集まり細胞老化を引き起こすことが知られている。特にスプライシングバリアントの一つであるPML-Ⅳは,PMLボディによる細胞老化の誘導において必要不可欠なものとなっている。しかし,魚類のゲノムにはpml遺伝子そのものが欠如しているため,魚類細胞にPMLボディは形成されない。 申請者らは,ファットヘッドミノー上皮由来のEPC細胞に,赤色蛍光タンパク質mCherryをC末端側に融合させたヒトPML-IV遺伝子をトランスフェクションしたところ,細胞の核にPMLボディ様の斑点構造が観察された。これらの細胞は増殖抑制を示し,細胞老化に特徴的な大型で扁平な形態を呈し,早期老化のマーカーであるSA-β-gal活性が上昇した。また,炎症性SASP因子の発現増加が見られ,PMLボディの欠如と老化耐性との関連を明らかにした。これらの結果を論文にまとめ,国際誌に投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度までに,p16遺伝子およびpml遺伝子をもたないことが魚類細胞の老化耐性機構の重要な要因であることを明らかにした。令和6年度以降は,魚類と同様にp16遺伝子が「ない」ショウジョウバエの研究を参考に,ミトコンドリア機能と老化耐性との関連に着目する。 ショウジョウバエでは,Rasの活性化とミトコンドリアの機能障害によりJNKの活性化とHippo経路が抑制され,完全老化の指標である炎症性SASPが誘導される。ショウジョウバエの研究では,ミトコンドリア呼吸鎖複合体遺伝子の機能欠失変異体の上皮細胞が用いられていたが,魚類細胞での変異体作製には時間がかかる。そこで本研究では,脱共役剤carbonyl cyanide m-chlorophenyl hydrazone(CCCP)や呼吸鎖複合体III阻害剤アンチマイシンAなどのミトコンドリア阻害剤をEPC細胞に添加することで対応する。ミトコンドリアの機能障害はJC-1染色により確認する。 令和5年度に行った予備実験では,CCCPを添加したEPC細胞においていくつかの老化マーカーと炎症マーカーの遺伝子発現が確認できた。その一方で,培地からCCCPを除去したところ、細胞の増殖が再開し,老化細胞の特徴である恒久的な細胞増殖停止は見られなかった。そこで,mCherry融合活性化型変異体Ras(H-RasV12)のトランスフェクションにより,恒久的な細胞増殖停止へのRasの関わりについても明らかにする。さらに,魚類においてもJNK経路とHippo経路は保存されているため,EPC細胞におけるこれらの経路を介したSASP制御について,レポータージーンアッセイやqRT-PCRなどで明らかにする。これらの成果を論文にまとめ,国際誌に投稿することを目指す。
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