2022 Fiscal Year Research-status Report
淡水棲マミズクラゲがもつ3つの謎(性決定、芽体形成、生物伝播)の解明に迫る
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22K05821
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
小林 千余子 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (20342785)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鹿島 誠 青山学院大学, 理工学部, 助教 (10780562)
鈴木 隆仁 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (60771285)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | マミズクラゲ / 分子系統解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
刺胞動物門ヒドロ虫綱に属するマミズクラゲは、淡水棲でありながらクラゲを放出する生物である。日本全国で夏場にマミズクラゲ成熟個体の発生が報道されるが、一つの池で片方の性だけしか確認されないこともあり、その性決定や生物伝播に関して謎多き生物である。申請者は2011年にマミズクラゲポリプを入手してから、飼育条件を工夫することで、マミズクラゲの生活環を研究室で再現することに成功し、どのステージに着目しても研究できる体制を整えた。そこで本研究では、マミズクラゲが持つ3つの謎(性決定、芽体形成、生物伝播)の解明に迫ることを目的として研究している。 R4年度は生物伝播の謎についての解析を行なった。マミズクラゲが属するCraspedacusta属内にはC.sowerbii以外にもいくつかの種の存在が報告されていたが、それらをC.sowerbiiと形態で明確に区別するのは難しく、近年、その種関係が分子系統解析により整理され始めた。それにより、Craspedacusta属内には、「DNA塩基配列が種レベルで異なるだろうクレード(分岐群)」が少なくとも3つ存在することが示され、それぞれのクレードは “sinensis” “sowerbii” “kiatingi”と名付けられている。日本ではマミズクラゲメデューサの出現情報に基づく分布域の情報が蓄積されていく一方で、分子系統解析は行われてこなかった。そこでR4年度は2019年から2022年に主に近畿地方で採集した、マミズクラゲのCraspedacusta属内の系統関係を明らかにすることを目的とし、研究を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採集したマミズクラゲから抽出したゲノムDNAから、スペーサー領域を含むrDNAの一部(ITS領域)をPCRにより増幅し、配列を決定した。中国28箇所とドイツ13箇所から明らかとなっていたITS領域の配列に、今回得られた日本産25個のITS領域の配列情報を加えて、MEGAXのソフトを用い、アライメント及び系統樹の作成を行なった。その結果、3つの主要なクレードのうち、少なくとも日本では2つのクレード“sowerbii”と “kiatingi”の存在が明らかとなった。1国内での複数クレードの発見は中国に次いで、2例目である。面白いことに、kiatingiのクレードの中では、今回得られた日本産の4つのサンプルはすべて雄で、かつ、ITS領域の配列は完全に一致していた。他国のサンプルでは中国湖北省シ帰県(Zigui)由来のサンプルと高い相同性がある事がわかった。このことから、日本での“kiatingi”クレードのマミズクラゲは、今のところ、1つのオスの起源から日本に移入してきたことが考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
近畿地方におけるマミズクラゲの系統解析に関しては一旦論文としてまとめることを考えている。今後は、全国から出現したマミズクラゲサンプルを集め、同様に系統樹を作製することで、日本全体を通した生物伝播についても議論したい。さらに、現在、研究室での交配実験が成功していることから、グレードが異なるマミズクラゲを掛け合わせ、受精できるか、発生するか、次世代を作れるかを検証することで、クレードと種分化についての考察を行なうことも考えている。 芽体形成の謎に関しては、研究分担者の協力のもと、フラストレ形成過程、ポリプ形成過程、メデューサ形成過程での経時的サンプリングを行い、RNA-seq解析で発現の比較を行なうことで、芽体形成初期で変化のある遺伝子群の探索を行う予定である。 性決定の謎に関しては、精巣と卵巣の発達段階を比較したRNA-seq解析から、性分岐初期に発現量に差異が生じる遺伝子を数個同定することができた。これらの得られた候補遺伝子に関しては、in situ hybridization法によってマミズクラゲの性分化過程における発現パターンを経時的に調べることで、性の分岐がどの「段階」、「組織」で生じるのかを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
今年度はRNA seq解析のためのサンプリングができなかったため、その経費が繰越となった。今年度はフラストレ形成過程、ポリプ形成過程、メデューサ形成過程での経時的サンプリングを行い、RNA-seq解析で発現の比較を行なうことで、芽体形成初期で変化のある遺伝子群の探索を行う予定である。
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