2022 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the adaptive immune system in teleost fish
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22K05824
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
片倉 文彦 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (10756597)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 魚類免疫 / 白血球移入 |
Outline of Annual Research Achievements |
魚病ワクチンの開発にむけた基盤としての魚類獲得免疫機構に関する知見を深めるため、白血球移入実験が可能なクローンギンブナにGFP等の蛍光タンパク質遺伝子を導入した系統を開発し、それらを用いてリンパ球の産生および活性化の分子機構を解明することが本研究の目的である。 ギンブナにおけるリンパ球産生の場(一次リンパ組織)の解明のため、魚類の主な造血器官である腎臓の白血球をEF1α:GFPクローンギンブナより単離して致死量放射線照射した同系統の野生型個体に尾静脈から移入し、レシピエント魚の生存率やキメリズムを解析した。腎臓白血球を移入しない対照群では放射線照射後2~3ヵ月までに100%死亡したが、約10,000,000個の腎臓白血球を移入した群では長期に亘り全ての個体の生存が維持された。レシピエント魚の末梢血白血球内のドナー由来細胞の割合を経時的にフローサイトメトリー解析したところ、移入後55日目までにリンパ球を含む全白血球がドナー細胞に置換され、それらは150日以上の長期間維持された。すなわち、ドナー腎臓白血球中の造血幹/前駆細胞が免疫拒絶なくレシピエント魚の造血組織を再構築したことが示された。 ギンブナにおける二次リンパ組織の同定と免疫記憶形成・維持機構の解明にむけて、モデル抗原キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)で感作した魚におけるKLH特異的IgM抗体価をELISA法により経時的に調べ、その上昇の程度とタイミングを明らかにした。さらに、KLH感作個体から得た白血球を同系魚に移入し、ドナー魚をKLHで再感作したところ、KLH特異的抗体価の上昇が初回感作個体よりも顕著に早まることを示し、液性免疫の伝達を証明した。 以上は、今後の魚類獲得免疫機構解明研究を強力に推進するための礎となる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度に実施した腎臓白血球移入実験により、放射線照射により破壊された造血組織を再構築させる能力をもつことが示され、レシピエント体内のドナー細胞についてGFPを指標に明確に識別することができたため、魚類のリンパ球の産生機構を解析するための基盤技術が確立できたものと考えられる。また、二次リンパ組織の同定および抗原認識リンパ球の活性化と記憶細胞化の機構を解析するための基本的な実験手法についても上述の通り確立することができた。さらに、記憶細胞維持の分子機構を解析するにあたり候補遺伝子であるインターロイキン7(IL-7)およびIL-15の同定にも成功している。一方、GFPとは異なる蛍光を示すEF1α:DsRedギンブナおよびT細胞を特異的に識別できるlck:GFPギンブナについては次世代への組換え遺伝子の伝達が認められず、系統の樹立には至っていない。 以上より、構築を予定していた実験ツールの一部は未達成であるものの、今後の研究推進の鍵となる実験手法の確立は済んでいることから、おおむね順調に研究が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、本年度に確立した造血細胞移入実験を深化・発展させる。すなわち、EF1α:GFP ギンブナよりhoechst33342に難染性のside population (SP)細胞(造血幹細胞)を放射線照射同系魚に移入し、GFP陽性細胞による胸腺組織および腎臓組織の再構築を種々の細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体等を用いてフローサイトメトリー解析や組織学的解析等により明らかにして、T細胞産生およびB細胞産生の評価実験系を構築する。また、二次リンパ組織の同定および記憶細胞の形成・維持の分子機構の解明実験については、細胞移入実験のドナーとしてEF1α:GFP ギンブナを用いた実験を実施する。これにより、レシピエント魚における抗体産生に関わる細胞集団を同定することができ、T-B相互作用が実証され、二次リンパ組織の局在が明らかになることが期待される。また、免疫記憶がどの条件(温度や季節)でどの程度維持されるのかについて、モデル抗原を用いた予備実験を継続する予定である。さらに、未だ系統樹立に至っていないEF1α:DsRedやlck:GFPなどの遺伝子導入魚の作出も継続して挑戦する予定である。
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