2022 Fiscal Year Research-status Report
日本の水田灌漑地区における従量制水利費賦課方式の効果に関する実証的研究
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22K05881
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石井 敦 筑波大学, 生命環境系, 教授 (90222926)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 灌漑管理 / 水利費 / 従量制 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、大規模水田灌漑地区の三重用水地区(受益面積約4000 ha)と大規模畑地灌漑地区の宮古土地改良区(同約9000 ha)において、従量制水利費賦課方式についての現地調査・データ入手および節水効果の分析を行った。 三重用水地区では、52の灌漑ブロックのうち43ブロックが従量制、9ブロックが定額制で水利費を賦課している。そこで両者の灌漑用水取水量データを土地改良区から収集し、比較分析を行って、従量制での取水の特徴を求めた。その結果、定額制ブロックでは稲作期間を通じて連続的に取水がなされているのに対し、従量制ブロックの取水は代掻き・田植期およびイネの開花期でかつ干天が続く時期に限られており、節水的であることが明らかになった。また、従量制ブロックの20%が定額制に変わった場合の水源ダムの貯水量の変化を算定したところ、ダムの貯水量が渇水警戒量を下回る年が2年に1度にのぼることがわかり、従量制のダム貯水量温存効果が確認できた。 宮古土地改良区では、R2年度より定額制から従量制に水利費賦課方式を変更した。そこで、R元年度以前の月別の取水量と降雨量のデータを土地改良区から入手し、両者の関係(一時近似式)を求め、R2年度以降の取水量について、実績値とR元年度以前の近似式から算定される取水量とを比較した。結果、実績値は算定値を約20%下回っており、従量制の節水効果が示唆された。 また、定額制で水利費を徴収しているウガンダの大規模水田灌漑地区(Doho地区、受益面積約1000 ha)を対象に、地区の上流下流での水利費徴収率の分布について分析を行い、幹線・支線・末端のいずれの水路レベルでも下流部で水利費の徴収率が低いことを明らかにした。これより、取水量の少ない地区で、水利費の徴収率が低いことを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大規模水田灌漑地区での従量制については、三重用水地区を対象とした現地調査・分析により、平常時において節水効果があることを明らかにし、さらに、それによりダム貯水の温存効果があり、渇水のリスク軽減効果があることを明らかにしている。その成果は、令和4年度農業農村工学会大会講演会の要旨としてまとめ、すでに発表をおこなっている。 また、大規模畑地灌漑地区についても、取水量についてのデータはすでに収集できており、月別の取水量の分析から従量制の節水効果を確認できている。その成果は、令和5年度農業農村工学会大会講演会で発表予定であり、すでに要旨は投稿している。また、雑誌「土地改良」にも要旨を投稿している。 また、ウガンダの定額制水利費賦課地区において、取水量が不足する下流部で水利費の徴収率が低いことが明らかになり、国際学術誌に論文を投稿してすでに出版されている。 さらに、従量制以外の節水方式をとっている大規模水田灌漑地区についても調査分析を進めており、1)茨城県の岡堰地区で用水の反復利用、2)三重県の宮川用水地区で番水についての用水使用データを入手・分析している。これにより、従量制の節水効果の程度を、他の節水手法と比較することで検証することが可能になると考えている。また、このうち1)についてはすでに成果の一部をR4年度農業農村工学会大会およびPAWEES 2022で口頭発表している。 以上、研究目的の従量制の節水効果およびダム貯水の温存効果については明らかにできており、学会発表も行っていることから、おおむね順調に進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
宮古土地改良区の現地調査を行う。日ベースの使用水量と作期、降雨の関係について分析し、受益農家を対象に実際の取水についての聞き取り調査を合わせて行い、農家の灌漑用水取水行動のモデルを構築する。また、三重用水地区でも同様の調査・分析を行う。 また、従量制以外の水利費賦課方式として、定額制の大規模水田灌漑地区の宮川用水地区、中勢用水地区(いずれも三重県。受益面積4000 ha程度)を対象に、灌漑用水使用量のデータを土地改良区から入手し、河川からの地区全体の取水パターンについて従量制の三重用水地区との比較分析を行い、従量制の節水効果について検証を行う。 また、従量制水利費賦課方式以外の、大規模水田灌漑地区における代表的な節水方式として、番水、用水の反復利用、配水の公的管理についても検討し、従量制の節水効果についての比較分析を行う。番水は宮川用水地区(三重県)、用水の反復利用は岡堰地区(茨城県)、配水の公的管理については韓国の農業開発公社(KRC)を事例対象とし、それぞれ現地で河川取水方法についての聞き取り調査を行う。
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Causes of Carryover |
R4年度は、宮古土地改良区の調査を年間2回予定していたが、9月頃まで関東地方を中心に新型コロナ感染症の感染率の高い状況が続き、離島である宮古島での現地調査はひかえ、12月になって1回の現地調査を行うにとどまった。また、三重用水地区についても同様の理由から現地調査回数が予定の2回から1回に減った。これらのため、その分、次年度使用額が生じた。 R5年度は、すでに新型コロナ感染症による行動規制が緩和されていることから、R4年度に実施予定だった宮古土地改良区および三重用水地区の現地調査(2回目)をそれぞれ実施し、旅費として使用する。また、従量制水利費賦課方式以外の節水手法をとる大規模水田灌漑地区(宮川用水地区、岡堰土地改良区、韓国KRC)での現地調査も行い、旅費として使用する。また、国際学会(PAWEES2023、韓国釜山)での成果発表の旅費としても使用することを計画している。
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