2022 Fiscal Year Research-status Report
消化管ホルモンによる飼料の選択的摂取調節における炎症性サイトカインの役割について
Project/Area Number |
22K05958
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
黒瀬 陽平 北里大学, 獣医学部, 教授 (10245392)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 摂食 / 炎症性サイトカイン / 消化管ホルモン / 嗜好性 / 脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、インターロイキン6(以下IL-6)の中枢作用が嗜好性を変化させる機序を多角的に検討した。実験1:IL-6の中枢作用が高脂肪食と高炭水化物食の選択摂取に及ぼす影響ならびに摂食調節因子の発現に及ぼす影響などを検討した。高脂肪食嗜好のラットを対照区とIL-6投与区に分け、リンゲル液(対照区)またはIL-6溶液(400 ng)を11日間連続で定時に側脳室内に投与し、高脂肪食と高炭水化物食の各摂取量を測定した。IL-6投与区では、投与6日目から摂取エネルギー量には変化がないものの高脂肪食の選択率が低下し、逆に高炭水化物食の選択率が増加した。選択試験終了時に視床下部におけるニューロペプチドY(NPY)、corticotropin-releasing hormone(CRH)、メラニン凝集ホルモン(MCH)、オレキシン、pyruvate dehydrogenase kinase 4(PDK4)、IL-6受容体の遺伝子発現量、肝臓におけるPDK4のmRNA発現量を測定した。その結果、IL6投与区では視床下部および肝臓のPDK4発現量が有意に低下した。実験2:嗜好性の変化をもたらすIL-6の脳内作用部位を検討した。室傍核内に実験1に準じてIL6(2 ngまたは20 ng)を投与したが、エネルギー摂取量と選択率に変化はみられなかった。これらの結果から、IL-6の中枢作用による嗜好の変化には、細胞内でのエネルギー基質が脂質から糖質に転換することが関与する可能性が示唆された。また、IL-6の中枢作用による嗜好の変化は、視床下部室傍核への作用だけでは説明できないことが示唆された。実験3:IL-6の作用部位をさらに特定するため、IL-6側脳室投与(1および7日間)による脳内主要部位(視床下部および報酬系)の神経活動(c-fos)とIL-6受容体発現を免疫組織化学的に検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、実験動物としてラットを用いIL-6の中枢直接作用が嗜好を変化させる可能性を検証した。その結果、IL-6の脳内直接作用が高脂肪食から高炭水化物食へと嗜好の変化をひき起こすことが実証された。さらに、その変化には中枢のみならず末梢組織(肝臓)におけるエネルギー基質の変化が関与することが示唆された。一方、消化管ホルモンであるグレリンの中枢投与が脂肪摂取を促進すること、扁桃体におけるGLP-1の摂食抑制作用にIL-6がメディエーターとして関与することなどがすでに報告されているが、消化管ホルモンによる飼料の選択摂取調節においてIL-6がメディエーターとして機能する可能性については本研究を含め未検討であることから、早急な検討が必要である。ニワトリにおける検討はまだ実施していない。
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Strategy for Future Research Activity |
グレリンおよびGLP-1による選択摂取調節におけるIL-6のメディエーターとしての役割を検討する。実験1として、消化管ホルモンとしてグレリンまたはGLP-1を中枢投与し、同時にIL-6の作用を遮断もしくは促進したときに、グレリンまたはGLP-1による選択摂取調節がどのような影響を受けるかを検討する。実験手順は2022年度の実験1に準じる。 実験2では、2022年度の実験3で得られたIL-6の作用部位を中心に、グレリンもしくはGLP-1を中枢投与した時のIL-6の発現量の変化を検討する。このとき、グリア細胞の指標を用いて、IL-6の発現がニューロンあるいはグリア細胞であるかも検討する。これらをニワトリにおいても検討する計画であるが、実験に使用するニワトリの系統および飼料の選択摂取の評価法についてプレ実験を行う。IL-6の作用部位が報酬系(腹側被蓋野もしくは側坐核)である場合、報酬系におけるGLP-1の選択摂取調節作用をIL-6が修飾する可能性がある。側坐核マイクロダイアリシス(微小透析)によって側坐核からドーパミンを継時的に回収し、その量的変化を測定することにより報酬系の活動を評価する。
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