2022 Fiscal Year Research-status Report
犬の新たな遺伝性疾患である「消化管腫瘍性ポリポーシス」の重症化機構の解明
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22K05985
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
平田 暁大 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (30397327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮脇 慎吾 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70756759)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 遺伝性消化管ポリポーシス / ジャックラッセルテリア / 家族性大腸腺腫症 / ゲノム編集 / マウス / 消化管腫瘍 / Autopsy imaging |
Outline of Annual Research Achievements |
家族性大腸腺腫症(FAP)はAPC遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体顕性遺伝性疾患であり、大腸腺腫性ポリープの発生を特徴とする。我々は、ジャックラッセルテリアにおいてAPC遺伝子の生殖細胞変異を原因するヒトのFAPに類似した遺伝性疾患を同定した。ヒトではAPC遺伝子の様々な領域に変異を有するFAPの家系が見つかっているが、遺伝性消化管ポリポーシスの罹患犬はAPC遺伝子の5’末端側の領域であるコドン154および155に変異(c.[462_463delinsTT])を有している。罹患犬は消化管において腫瘍性ポリープ(腺腫、腺癌)の発生がみられるが、ヒトのFAP患者と異なり、胃においてより高頻度にポリープが発生する傾向がある 今年度は、ゲノム編集技術により、イヌと同じApc遺伝子変異を有するマウス(ApcΔ155)を作製し、当該遺伝子変異により生じる表現型の解析を行なった。ApcΔ155マウス(n=9)には、20週齢の時点で、胃、小腸、大腸に腫瘍の発生が認められ、その発生率は胃および小腸では100%、大腸では44%であった。発生した消化管腫瘍のほとんどは病理組織学的に腺腫であった。小腸では近位側においてより多くの腫瘍が発生した。Apc(Min/+)マウスなどのApc遺伝子変異を有する既存のFAPのモデルマウスのデータと比較すると、ApcΔ155マウスでは胃および小腸において腫瘍の発生数が多かった。ApcΔ155の表現型はイヌの表現型と類似しており、APC遺伝子の5’末端側の変異は胃を含む消化管の近位側に多くの腫瘍を誘発する可能性が示唆された。 さらに、今年度、腫瘍の転移により死亡したジャックラッセルテリア5頭の病態について、死後のCT検査と病理解剖により詳細に解析した。その結果、散発性の消化管腫瘍の症例と同様に、腫瘍が全身転移して死亡する場合もあることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジャックラッセルテリアの「遺伝性消化管腫瘍性ポリポーシス」は近年発見された遺伝子性疾患であり、当初は予後の良い疾患と考えられていた。しかし、症例データの蓄積が進むにつれて、疾患の重症度(腫瘍の発生数、発症年齢)には大きな個体差があり、また、腫瘍が悪性化して死亡する症例もいることもわかってきた。本研究では、本疾患の重症化に関わる“先天的な” 因子(疾患の重症度に影響する遺伝的修飾因子)と“後天的な” 因子(腫瘍に生じた悪性化に関わる遺伝子異常)を同定し、その分子メカニズムを包括的に解明する。 先天的な因子の検索では、重症度の異なる症例の比較から遺伝的修飾因子(遺伝子多型)の候補を同定し、モデルマウスで検証する。今年度までに、イヌと同じApc遺伝子変異を有するゲノム編集マウス(ApcΔ155マウス)を作製し、イヌと類似の病態を再現できることを確認した。また、本疾患の症例の多数のDNA検体を保持しており、遺伝的修飾因子の検索の準備を終えた。 後天的な因子の検索では、主に悪性化した腫瘍に生じた体細胞変異の解析を実施する。これまでに、消化管腫瘍の転移により死亡した5頭の病理解剖を行い、その病態を詳細に把握するとともに、原発腫瘍およびリンパ節、肺や肝臓などの遠隔臓器の転移巣の検体を採取した。浸潤性の乏しい典型的な消化管腫瘍の検体も多数保持しており、今後、今回採取した腫瘍の検体との比較から、腫瘍の悪性化の分子機構を解析する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、ジャックラッセルテリアの「遺伝性消化管腫瘍性ポリポーシス」の重症化に関わる“先天的な” 因子(疾患の重症度に影響する遺伝的修飾因子)と“後天的な” 因子(腫瘍に生じた悪性化に関わる遺伝子異常)を同定する。 先天的な因子の検索については、来年度は、重症度の異なる症例の比較から遺伝的修飾因子(遺伝子多型、SNP)の候補の検索を行う。全ゲノムシーケンスにより、重症例と軽症例のDNA配列を網羅的に解析し、両者で異なるSNPを検索する。我々は、本疾患の罹患犬の検体のDNA検体を多数保持しており、これらの検体を利用して、候補となったSNPと病態の重症度の関連について検証し、候補の絞り込みを行う。最終的に候補となった数個のSNPを有するマウスをゲノム編集によって作製し、ApcΔ155マウスと交配し、SNPの導入により消化管腫瘍の発生数が変化するかを検証する。また、Apc(Min/+)マウスなどのApc遺伝子変異を有する既存のFAPのモデルマウスでは大腸に微小病変が生じることが知られている。ApcΔ155マウスにも同様の病変を検出できれば、その定量的な評価によってより正確に腫瘍発生へのSNPの影響が評価できる可能性があり、ApcΔ155マウスの病態・表現型についてもさらに解析を進める。 後天的な因子の検索では、これまでに収集した悪性度の異なる腫瘍検体からDNAを抽出し、体細胞変異の解析を実施する。ヒトのFAPでは、散発性腫瘍と同様にadenoma-carcinomaシークエンスに従って、大腸腫瘍が腺腫から腺癌に進展することが知られており、イヌの腫瘍についても、adenoma-carcinomaシークエンスに関わるK-RAS、BRAF、TP53遺伝子などについて体細胞変異の有無を検索する。
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Causes of Carryover |
来年度に実施する予定の全ゲノムシーケンスは高額であるが、これまでに予想を上回る検体を収集することができた。そのため、今年度の使用額を可能な限り節減し、来年度の全ゲノムシーケンス解析に充てることにした。
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Research Products
(5 results)