2022 Fiscal Year Research-status Report
中枢神経系の炎症制御における脳硬膜の関与についての実験病理学的研究
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22K06026
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
寸田 祐嗣 鳥取大学, 農学部, 准教授 (20451403)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中枢神経系 / 髄膜 / 硬膜 / EAE / 獣医病理学 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、様々な神経系疾患の病態への「髄膜の関与」が疑われているが、その詳細は不明である。髄膜は硬膜、クモ膜、軟膜によって構成される脳脊髄を被包する膜状構造である。本研究では実験的に脳脊髄炎を誘発したマウスの髄膜を詳細に解析することにより、髄膜の中でも特に硬膜に生じる病理組織学的特徴を明らかにすることを目的とした。 髄鞘の構成成分由来のペプチド抗原をマウスに投与した後、投与後6,13,35日目にマウスの硬膜、軟膜を含む脳脊髄を採材し、病理組織学的検索、各種炎症性細胞マーカーに対する免疫組織化学的検索を実施した。抗原投与マウスの多くは、7日目以降に体重減少、尾緊張低下、後肢麻痺等を発症しEAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎;多発性硬化症の病態モデル)が誘導された。22日目以後、症状は軽快し体重も回復したが、32-35日目にかけて、体重減少並びに症状の再発を認めた。6日目(無症状期)に病変を認めた個体は1匹のみであったが、13日目(急性期)、35日目(再発期)にはすべてのマウスに脳脊髄炎が確認され、一部の個体では髄鞘の傷害を伴っていた。 硬膜では、静脈洞周囲を中心に単核細胞及び分葉核細胞の浸潤を認め、13日目において顕著であった。各部位における浸潤細胞はCD3、CD20、Iba-1またはLy6Gに陽性であり、それぞれT/Bリンパ球、マクロファージ・ミクログリアまたは好中球であると判断した。 以上のように、EAE誘導マウスの硬膜内に各種炎症性細胞が生じることが明らかになり、脳脊髄の炎症の惹起あるいは再燃における髄膜の関与が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初の研究計画・目的として、マウスに脳脊髄炎を誘導すること、髄膜に生じる病理組織学的特徴を明らかにすること、を予定していた。上記したように80%以上のマウスが脳脊髄炎を発症することが確認され、今後の解析に有用な実験系を設定することができた。 さらに、症状の急性期、緩解、再発期に分けて詳細に病理解析することによって、大脳硬膜内に各種炎症性細胞浸潤が生じることを明らかにすることができた。 以上、現在までの研究進捗状況を簡潔にまとめると、硬膜においてはTリンパ球ならびに好中球の浸潤が脳実質よりも目立つことが特徴ではないかと考えた。このような状況から、本研究課題はおおむね順調に進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記した通りに本年度までの研究進捗状況を簡潔にまとめると、硬膜においてはTリンパ球ならびに好中球の浸潤が脳実質よりも目立つことが特徴ではないかと考えた。そこで、今後の研究の推進方策としては、Tリンパ球と好中球の関与・役割について注目して研究を進める予定である。 まず、新たに種々のTリンパ球マーカーを加えて、髄膜内に浸潤するTリンパ球の種類や特徴を病理組織学的・免疫組織化学的に明らかにする予定である。また、病理解析に加えて、遺伝子増幅(RT-PCR)によっても同様に検索を進める予定であるが、脳硬膜のみを純粋に単離するための方法の確立・予備的検討が課題となる。 さらに、好中球が有する酵素のひとつであるエラスターゼに着目する予定である。具体的には、エラスターゼを阻害する薬剤を投与することによって、脳脊髄炎の発症にどのような影響があるのか、脳脊髄実質内ならびに髄膜内の好中球の分布や機能がどのように変化するのか、について検討を進める。予備的な検討によって、阻害剤を投与することによって脳脊髄炎の病態が改善される傾向が示されており、今後、慎重に確認を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため現地参加予定であった学術集会が、オンライン開催となり、当初予定していた旅費に変化があったために次年度使用額が生じた。 当該助成金については、翌年度分として請求した助成金と合わせて、翌年度における成果発表のための旅費あるいは研究課題遂行のための消耗品費に使用予定である。金額は妥当な範囲であり、研究計画状況ならびにその進捗には影響がないと考えられる。
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Research Products
(1 results)