2022 Fiscal Year Research-status Report
オキシトシンーバソプレシン相互作用による泌乳期の母体水分バランス調節機構の解明
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22K06037
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
上川 昭博 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (30581665)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 射乳 / バソプレシン / オキシトシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、生体の水欠乏を是正するホルモンである「バソプレシン(VP)」が、授乳による母子間の水分配を促すホルモンである「オキシトシン(OT)」の射乳誘発作用を抑制し、母体の水分バランス維持に寄与するという仮説を検証することを目的としている。2022年度の研究では、マウスを用いてVPの射乳に及ぼす影響を解析した。VPはOTと類似したホルモンであり(構成する9アミノ酸のうち7アミノ酸が相同)、それ自身がOT受容体を介した射乳作用を示すことが知られており、マウスを用いた申請者の実験系でもそれを確かめた。一方で、VPによる射乳反応はOTに比べて弱く、OTによる射乳反応に対してはむしろ抑制的に働くことを明らかにした。そこで次に、VPによるOT誘発性射乳反応の抑制作用のメカニズム解明を目指した。本抑制作用がVP受容体を介するものであるかを明らかにするために、複数のVP受容体阻害剤を用いて検討を行った。VP受容体(V1a受容体)を介したVPの血圧上昇作用を抑制するのに十分な阻害剤存在下で、VPによるOT誘発性射乳抑制作用は解除された。これはV1a受容体へのVPの作用がOT誘発性射乳反応の阻害に重要な役割を果たすことを示唆している。ただし薬理学的解析では、VP受容体(V1a, V1b, V2受容体)とOT受容体の相同性に起因する阻害剤の選択性(交差性)の問題を完全に排除することができない。そこでV1a受容体とV1b受容体のノックアウトマウスを導入し、抑制機構の分子基盤をより明確に示す準備を進めすための実験を進めている。以上の通り、OT-VP相互作用による射乳調節機構の存在とその生理的意義を示す上で重要な知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたVPによるOT誘発性射乳反応の抑制作用の解析が概ね完成した。また、その抑制メカニズム解明への取り組みについて進捗があり、薬理学的解析からVP受容体の関与について手がかりを得た。 当初2022-2023年に実施計画していた乳腺組織灌流実験、乳腺筋上皮培養細胞などを用いた乳腺局所的なAVP-OT相互作用を調べる実験にはまだ取り組めていないが、実験の進捗に合わせてVP受容体ノックアウトマウスを導入するなど当初計画以外で重要な進展があった。 以上の点から「おおむね順調に進展している。」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度はVP受容体のノックアウトマウスを用いて、VPによるOT誘発性射乳反応の抑制メカニズムを解析する。また射乳調節におけるVP-OT相互作用の生理学的意義についてもマウスを用いて検証する。つまり、内因性にVPが分泌されるような条件において、射乳が抑制されるか、その抑制に上述のメカニズムが関与するか、それが母体の水分バランス維持に寄与するか、について検討する予定である。
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Causes of Carryover |
実験の進捗に合わせた実験計画の変更に伴い一部2022年度中に予定していた備品の購入を実施しなかった。また予定していた学会参加、論文投稿がなかった。一方で実験目的達成のために重要な計画外の支出があった(ノックアウトマウス導入、維持管理)。その差引として次年度使用額が生じた。2023年度分として請求した助成金と合わせて、当初予定に加えて、未購入備品の購入とノックアウトマウスの維持管理費として使用する予定である。
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