2023 Fiscal Year Research-status Report
光操作を用いた不整脈モデル動物の創出による心臓拍動制御メカニズムの解明
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22K06072
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
森川 久未 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90707217)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
海老原 達彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ付 (00344119)
白吉 安昭 鳥取大学, 医学部, 准教授 (90249946)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 光遺伝学 / 光操作型Cre組換え酵素 / 不整脈 / iPS細胞 / 疾患モデル / モデルマウス / 光照射 / 遺伝子組換え |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、我々が開発をおこなってきた青色光照射を利用した遺伝子発現制御技術である光操作型Cre組換え酵素(Photoactivatable Cre Recombinase; PA-Cre) を活用し、心臓の不整脈である徐脈性不整脈の疾患病態の再現と解析を試みている。 ヒトモデルでの疾患再現を目指して、ヒトiPS細胞とそこから分化誘導した心筋細胞を用いて開発を進めてきた。これまでにPA-Creを恒常的に発現可能であるヒトiPS細胞株を樹立し、今年度は、(1) 心臓拍動制御遺伝子コンディショナルノックアウトiPS細胞株 (flox細胞株) の樹立、(2) 青色光照射条件の最適化、(3) 時空間特異的光照射方法の確立の三点を重点的に進めてきた。その結果、(1) については、心臓拍動制御遺伝子のエクソンの両端にlox配列をノックインしたflox細胞株の樹立に成功している。(2) については、高効率でCre-loxP組換えを引き起こす青色光照射条件を5段階に検証し、最適条件を見出した。さらに、(3) について、時空間を区切って光照射特異的Cre-loxP組換えを引き起こすことのできる光照射デバイスについて検証し、DMDや水銀ランプの絞りを使用することにより、時空間を区切ったCre-loxP組換えを引き起こすことに成功した。 これらの研究成果として、2023年度は国内・国際学会での発表を筆頭で5件行った。加えて、昨年度に論文投稿をおこなったPA-Creマウスモデルでの光操作技術の確立に関する論文については、現在査読対応中である。また、これまでのPA-Cre恒常発現ヒトiPS細胞に関する研究結果をまとめて論文を作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は以下の実験を中心に研究を進めた。 (1) 拍動制御遺伝子コンディショナルノックアウトiPS細胞株(flox細胞株)の樹立:心臓拍動制御に必須であるHCNチャネルを構成するHCN4遺伝子を、青色光照射時にノックアウトするために、PA-Cre恒常発現iPS細胞において、コンディショナルノックアウト細胞株の樹立を行った。HCN4遺伝子のエクソン2の両側にlox2272配列を挿入したfloxベクターと、HCN4のもう一対の遺伝子をノックアウトするために、vlox2272配列を挿入したfloxベクターの計2種類を作製した。このベクターをPA-Cre恒常発現iPS細胞にCRISPR/Cas9を用いて遺伝子導入した。薬剤選択後、計24株の細胞株を樹立し、そのうち4株で、PCRによりHCN4遺伝子座へのfloxベクターのノックインを確認した。以上より、片遺伝子座にlox2272配列をノックインしたflox細胞株の樹立に成功した。 (2) PA-Cre恒常発現iPS細胞における光照射条件の最適化:青色光照射により最も効率良くCre-loxP組換えを引き起こす条件の探索を行った。PA-Cre恒常発現iPS細胞において、青色光の照射時間と照射強度について、それぞれ5段階に設定し、検証した。その結果、弱い照射強度で長時間光照射を行う条件が最も効率良く組換えを引き起こすことが判明した。 (3) 時空間特異的光照射方法の確立:時空間を区切った青色光照射によるCre-loxP組換えを実現するために、共焦点顕微鏡や、DMDを用いた光照射、さらに水銀ランプの絞り機能を用いた手法など、各種の光照射デバイスを用いて検証した。その結果、DMDや水銀ランプの絞りを用いた光照射によって、空間を区切った組換えが可能となることが判明した。 以上の成果を得られたため、当初の計画通りに研究は進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの進捗を受け、2024年度は以下の3点について研究を進めていく。 (1) iPS細胞における光照射による遺伝子ノックアウト手法の確立:樹立した心臓拍動制御遺伝子flox iPS細胞株において、光照射特異的遺伝子ノックアウトを検証する。2023年度に最適化した青色光照射の条件で光照射を行い、Cre-loxP組換えが起こっているかどうかを、赤色蛍光の発現を指標に判断するとともに、青色光照射後の細胞を回収して、genotyping PCRを行い、目的遺伝子の除去を確認する。この概念実証(POC)に成功したら、この結果をPA-Cre恒常発現iPS細胞の論文に含めて発表する計画である。 (2) 光照射による徐脈性不整脈病態の再現と病態解析:(1) の実験に成功したら、flox細胞株から分化誘導した心筋細胞において、青色光照射による遺伝子ノックアウトによって引き起こされる心筋拍動数の変化や不整脈の解析を行う。タイムラプスイメージングや、MEA(多点電極)を用いて光照射の前後で、拍動数がどのように変化するかを検証し、不整脈病態の再現と解析を試みる。特に、青色光照射の時間と強度を変化させることにより、遺伝子をノックアウトする細胞数をコントロールし、その際の不整脈の発症との関係性について検証する。 (3) 心臓拍動制御遺伝子コンディショナルノックアウトマウス(floxマウス)の樹立:ヒトiPS細胞での研究が順調に進めば、ヒトと同じ拍動制御遺伝子のfloxマウスの樹立を行う。CRISPR/Cas9を用いて、マウス受精卵でHCN4遺伝子座へのloxP配列のノックインを行い、floxマウスを作製する計画である。加えて、マウス実験においては、現在投稿中の論文査読に対する実験対応を行い、発表を進める予定である。
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Causes of Carryover |
差額については、1年目の研究が非常に順調に進んだために繰り越しが生じている。本年度はヒトiPS細胞の培養とマウス飼育費用にほぼ予定通りの研究費を使用した。これまでの繰り越し金額については、最終年度に論文校正や論文発表費用として重点的に使用し、研究成果の着実な公表に使用する計画である。
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Research Products
(6 results)