2022 Fiscal Year Research-status Report
新規アロステリック薬発見を目指したガン糖代謝関連タンパク質の動的分子構造解析
Project/Area Number |
22K06106
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
櫻井 一正 近畿大学, 先端技術総合研究所, 准教授 (10403015)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米澤 康滋 近畿大学, 先端技術総合研究所, 教授 (40248753)
白木 琢磨 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (10311747)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アロステリー / タンパク質 / ガン創薬 / 分子運動性 / NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
本計画の最終的な目標は新たなガン治療薬の創出であり、その阻害標的としてEctonucleoside Triphosphate Diphosphohydrolase 5 (ENTPD5)に着目した。ENTPD5は小胞体内への糖の取込みとその糖鎖による成長因子受容体の品質管理に関わるタンパク質である。ガンではENTPD5の発現が亢進しているため、その阻害によって受容体産生、ひいてはガンを抑制できると考えた。 ENTPD5は正常細胞でも働いているため、ガンによる亢進分だけ細胞増殖活性を弱める必要がある。そこで、活性部位以外に結合し標的の活性を変化させるアロステリック分子の合理的発見を目指す。酵素は開構造と閉構造といった複数構造間の動的平衡にあり、活性はその平衡に依存する。その動的平衡に関わる残基を同定し、それらに結合することで動的平衡を変化させ、酵素活性を操作する物質を創出することを目指す。 開始当初、期間前半(2022~2023年度)では(i)条件変化によりENTPD5がとる各状態の存在比を変化させ、各残基の運動性と構造変化をNMRで検出する、(ii) 報告されているガン関連スプライシングバリアントによる活性変化を調べる、という実験を行い、有意な変化を示した残基を連動変化残基群と同定し、アロステリック機構のメカニズムの考察を目指した。 2022年度は、酵母発現系による標的タンパク質ENTPD5の試料調製法の確立と、得られた試料の活性測定法の確立まで達成した。特にENTPD5は糖タンパク質だが、確立した酵母発現系と精製方法によって特定の糖鎖修飾体のみを得られるようになった。現在は活性の条件依存性、NMR測定用の同位体標識体調製法、計算に基づいた分子運動の予測と連動変化残基群、阻害分子探索法の検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
概要で述べたとおり、期間前半(2022~2023年度)は以下の二つの方法で実験的にENTPD5の連動変化残基群の同定を行う予定であった。 (i) 基質やそのアナログの添加、温度・圧力・pHの変動などでENTPD5がとる各状態の存在比を変化させる。特に圧力摂動は、機能に関連した状態間の平衡の人為的な操作にも用いられている。そして様々な状態存在比において、各残基の運動性と構造変化を、それぞれNMRの緩和速度と化学シフト変化から調べ、有意な変化を示した残基を連動変化残基群の候補とする。 (ii) 先行研究で報告されている各種ガン関連スプライシングバリアントによる活性変化を調べる。これらのスプライシング部位の有無はアロステリック機構を介して活性を変化させていることが考えられるので、その関連性を実験的に調べ、連動変化残基群の候補とする。 上記(i)、(ii)の実験結果とあわせて考察し、連動変化残基群に属す残基を同定し、アロステリック機構のメカニズムを考察する。 2022年度は、(i)ENTPD5試料調製法と活性の定量化法の確立までできた。現在その報告論文を作成中である。しかし当初予定の活性の条件依存性は未遂行である。また(想定はされていたが)NMRによる各残基の主鎖信号が測定困難であることが分かったため、異なるNMR測定試料調製法の検討をする必要がある。(ii)に関しては複数の候補変異体のうち、一部の作製と活性測定まで行った。現在他の変異体を作製中である。(i),(ii)いずれも、連動変化残基群の情報を得るには至っておらず、2023年度はその目標を達成することに注力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
上欄進捗状況で述べたとおり、期間前半(2022~2023年度)の当初目標(i),(ii)に対する進捗は十分ではないと考えており、それぞれに対し、以下の対策案を遂行する。 (i) 連動変化残基群の同定のために、条件依存的な構造変化を示す残基をNMRで同定することが当初の計画であったが、NMR主鎖信号測定では困難だと判断されたので、側鎖信号測定への変更を検討する。また他の方法、具体的にはMDシミュレーションやAIによるアロステリックサイト予測アルゴリズムを用いて連動変化残基群を推測し、アミノ酸変異実験でその予測の裏付けを取る、という方法も検討する。 (ii) 先行研究で報告されている各種ガン関連スプライシングバリアント4種のうち1種のみ作製と活性測定が完了している。残りの3種を継続して作製、活性測定と進みたい。 また、標的タンパク質の運動性変化を引き起こすアロステリック阻害剤の探索、という戦略を考えていたが、先に結合する分子を分子ライブラリからスクリーニングし、その中からアロステリック機構で作動する分子を選択する、という戦略も検討する。具体的には、FBDD型、つまり分子フラグメントライブラリ中から標的タンパク質と相互作用するものを検出し、それらをカップリングした分子を作成することで結合分子を見つけ出す。相互作用フラグメントの同定には、実験的にはフラグメント側のNMRや標的タンパク質側の熱安定測定で行う。フラグメントのカップリングとそのドッキングシミュレーションは、当初の予定の通りの方法で行う。
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Causes of Carryover |
2022年度の計上した予算のうち、物品費およそ15万円を来年度に繰り越すこととした。【現在までの進捗状況】や【今後の研究の推進方策】に記載したが、NMR測定用ENTPD5試料調製の条件検討に想定よりも時間がかかり、当初予定していた活性の条件依存性やNMR測定用の同位体標識体調製に着手できず、その分が未執行だったことがひとつの理由である。次年度にはこれらの着手のために、繰り越し分を利用することを計画している。また、計算に基づいた分子運動の予測と連動変化残基群、阻害分子探索法の検討、にも利用していくことを考えている。
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