2023 Fiscal Year Research-status Report
アティピカルRasファミリーが制御する発がん抑制シグナルの解析
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22K06131
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
多胡 憲治 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (20306111)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Rasファミリー / 発がんシグナル / がん抑制遺伝子産物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で同定したNKIRAS2の結合タンパク質の一つであるTRB3の発がんシグナルへの関与を検討するため、レトロウイルスを用いた遺伝子導入法によりTRB3をマウス線維芽細胞NIH-3T3に強制発現させた。がん化型Ras変異体による細胞の形質転換は、軟寒天培地中におけるコロニー形成により評価した。TRB3の強制発現は、がん化型Ras変異体による形質転換を顕著に抑制した。同時に、TRB3はRas変異体によるタンパク質キナーゼAKTの活性化を阻害する結果が観察された。次に、TRB3の発現抑制(ノックダウン)の効果を検討するため、レトロウイルスを用いた遺伝子導入系により、TRB3に対するshRNAを発現し、効果を検討した。TRB3のノックダウンはがん化型Ras変異体による形質転換を増強することが観察された。さらに、TRB3のノックダウンはRas変異体によるAKT活性化を顕著に増強することが観察された。 多くのがん細胞で様々ながん抑制遺伝子の発現がエピジェネティックな発現制御を受けているため、各種ヒトがん細胞株におけるTRB3の発現をRT-PCRにより検討した。A549やPANC1、HCT116など、KRas遺伝子にがん化型の変異が入っている細胞では、TRB3 mRNAの発現は非常に低かった。しかし、DNMT1阻害剤でDNA脱メチル化剤であるazacytidineでこれらの細胞を処理すると、TRB3 mRNAの発現量は顕著に増大した。この結果から、がん細胞のいくつかでは、TRB3の発現はDNAメチル化によりエピジェネティックな制御を受けていることが示された。また、これらの細胞株にTRB3を強制発現すると細胞の増殖が顕著に抑制されたことから、TRB3は新規のがん抑制遺伝子産物として機能していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度は、研究環境が自治医科大学から群馬大学に移ったため、新しい研究室のセットアップなどに時間がかかった。遺伝子組換え実験や動物実験の計画申請に許可が出るまでにも時間がかかり、前半期は実験の時間を十分に取れなかった。しかしながら、現在は、TRB3の強制発現・ノックダウンにより発現が変化する遺伝子群の同定も進みつつあり、その生理機能の解析も含めて、当初の研究到達目標に近付いている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、TRB3の相互作用分子の同定、TRB3が発現に影響を及ぼす遺伝子群の同定が進んでおり、これらのタンパク質・遺伝子の機能解析を通じて、TRB3、さらには NKIRAS による発がんシグナルの制御機構の解明を目指す。さらにヌードマウスへのがん細胞の移植実験や、ヒト患者検体の解析を行うことにより、NKIRAS2/TRB3シグナルが、今後、抗がん剤の標的などに なり得るかの検討を行う。
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Causes of Carryover |
2023年4月より群馬大学保健学研究科生体情報検査科学講座に教授として着任し、研究室の立ち上げなどで、研究の開始が8月までずれ込んだ。そのため、実験が十分に進ませることができず、試薬の購入なども十分でなかったため、次年度の使用額が生じた。現在、TRB3により発現変化する遺伝子群を同定し、その機能解析を進めており、次年度使用額として目的通りの使用を行う予定である。
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