2022 Fiscal Year Research-status Report
新規構造・基質に基づく細菌S2P膜内切断プロテアーゼの切断制御機構の酵素学的理解
Project/Area Number |
22K06142
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
檜作 洋平 京都大学, 医生物学研究所, 助教 (70568930)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 大腸菌 / 膜内タンパク質分解 / 膜内切断プロテアーゼ / 亜鉛金属プロテアーゼ / S2P / 基質認識機構 / X線結晶構造 / 阻害剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、大腸菌膜内切断プロテアーゼRsePを研究対象とし、申請者らが新たに明らかにした新規立体構造や新規切断基質群に基づいて生化学的・遺伝学的・酵素学的解析を行うことで、膜内切断の基質認識・切断機構の分子的理解を得るとともに、多様な基質の基質特異性を生み出す普遍的原理を理解することで、膜内切断の特異的制御を介した新規薬剤開発の分子基盤を構築することを目的とする。本年度は研究実施計画に基づいて研究を行い、以下の成果を得た。 ■RsePの新規X線結晶構造に基づく機能制御機構の解析:大腸菌RsePと阻害剤Batimastatとの複合体構造を基に変異体機能解析や阻害剤感受性アッセイを行い、阻害剤作用機序及び基質結合様式を明らかにした。また、異種の細菌RsePホモログとの立体構造比較に基づいた変異解析や修飾実験によるドメイン構造解析からRsePがゲート様構造を保有することを示し、さらに分子内架橋によりゲートの構造変化を制限すると基質切断能が低下したことから、このゲートの可動性が効率的な基質切断に重要であることを示した。これらの結果から、基質取り込み時にゲート構造が開閉することで、基質の触媒部位への提示及び切断を制御するというRsePの新たな切断制御モデルを提案した。これらの成果を論文にまとめ、学術雑誌Science Advances上で発表した。 ■新規切断基質群を用いた系統的切断解析:新規基質を含む25種の基質群の切断効率を同一条件で定量化できる解析系を構築し、これらの切断効率を比較した所、基質の膜貫通・膜外配列や長さ等の特徴と切断効率の間には明確な相関が見られないことを示した。さらに基質の系統的な変異解析・スワッピング解析を行い、基質の膜外領域の配列がRsePによる特異的な認識及び効率的な切断に影響を与えることを示唆する結果を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、3つの研究項目からなるため、それぞれの項目について評価する。項目【1】.「RsePの新規X線結晶構造に基づく機能制御機構の解析」では、本研究課題にとって重要な位置付けとなるRsePの新規の全長構造に基づく構造―機能相関解析を行い、細菌S2Pファミリー膜内切断プロテアーゼの阻害剤結合状態のRsePの全長構造を世界に先駆けて発表するとともに、新規の基質取り込み・切断制御機構モデルを学術論文として発表した。さらに、これまで明らかにされていなかったRsePの阻害剤batimastatの作用機序についても実験的に示した。これらの成果は膜内切断の特異的制御を介した新規薬剤開発の分子基盤の構築という本課題の目的に向けて大きく前進するものであり、初年度の進捗状況としては想定以上の進展であると判断する。次に項目【3】.「新規切断基質群を用いた系統的切断解析」に関して、研究実施計画通りに25種のRseP切断基質の系統的変異解析、スワッピング解析を進め、RseP基質の効率的な切断を促す領域や基質ごとの特異性を決定する要因について、その手掛かりとなる成果を得た。これは初年度の成果としては順調に進展しているものと捉えている。本年度は項目【1】の成果を発表するためのとりまとめを含めた解析を優先したため、項目【2】.「定量的in vitro酵素活性測定法の構築とそれを用いたkinetics解析」については、ほとんど進展は見られなかった。総合的に判断して、本課題は当初の研究計画に沿って順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】の項目で記載した通り、ここまで概ね申請当初の研究計画通りに進展している。そのため本研究課題の2年目となる次年度は、引き続き研究計画に沿って研究を進める。まず項目【1】では、発表論文において提唱した、ゲート構造の構造変化を介したRsePの基質取り込み・切断制御機構モデルをさらに強固なものとするため、基質取り込み過程におけるゲート構造の構造変化の実態を明らかにする。具体的には部位特異的架橋法やチオール基修飾法を用いてゲート構造を含む各ドメイン間の生体中での立体配置を明らかにし、さらに変異体機能解析やモデル基質共発現条件での解析と組み合わせることで、基質結合時の各ドメインの構造変化を検証する。項目【3】では、これまでにRsePの多種の基質群の系統的解析から、RsePの基質特異的な認識機構、すなわち基質選別機構について手掛かりとなる解析結果が得られつつあるので、引き続き解析を進め、その分子機構の実態を明らかにする。具体的には基質変異体の系統的解析をさらに進め、切断促進配列や切断忌避配列を特定するとともに、部位特異的光架橋法を用いたRsePと各基質との相互作用解析を実施することで、基質選別機構の構造学的理解を深める。項目【2】に関しては、既に予備的解析により、蛍光基質ペプチドと精製RsePを混合してリアルタイムでFRET蛍光を測定することで、RsePのプロテアーゼ活性に依存した蛍光シグナルの変化を捉えている。そこでこの測定系をベースとしてさらに精度、信頼度の高い測定条件を探索し、確立するとともに、RsePのゲート構造領域等の各種変異体を精製して、この測定系を用いて、Michaelis-Mentenパラメータの算出等、酵素反応速度論的解析に取り組む。
|
Causes of Carryover |
今年度の使用状況:特筆すべき事情として、新型コロナウイルスに対する感染対策のため、研究打ち合わせに掛かる出張費等が縮小された。(物品費)今年度はRsePや各種基質変異体を用いた遺伝学的・生化学的解析や精製タンパク質でのアッセイが主となり、研究室の保有機器及び保有試薬、消耗品、研究所の共同利用機器等を使用することで物品費を抑えつつ研究を遂行した。(旅費)いくつかの学会・研究会に大学院生等と共に参加・発表したが、ウイルス感染対策として共同研究の打ち合わせ等がほとんどWEB会議が主となり、出張関連費等の使用額が減少した。(その他)変異体構築用のオリゴDNA合成委託や、シーケンシング解析委託に掛かる費用を主として計上した。 次年度の使用計画:(物品費)研究の進捗状況により、架橋解析や修飾解析に必要な関連試薬やin vitro切断に必要な無細胞タンパク質合成キット等、パルスチェイス解析におけるタンパク質標識用の放射性同位体標識メチオニン等、免疫沈降実験に用いる抗体標識ビーズ等の購入費を計上する。(旅費)発表論文の成果発表及び情報収集のため海外で開催される国際学会及び国内の学会への参加を予定しており、その関連費を計上する。(その他)in vitro切断アッセイに用いる蛍光標識ペプチドの合成委託費、オリゴDNA合成委託やシーケンシング解析委託費を計上する。
|
Research Products
(10 results)
-
[Journal Article] Mechanistic insights into intramembrane proteolysis by E. coli site-2 protease homolog RseP2022
Author(s)
Y.Imaizumi, K.Takanuki, T.Miyake, M.Takemoto, K.Hirata, M.Hirose, R.Oi, T.Kobayashi, K.Miyoshi, R.Aruga, T.Yokoyama, S.Katagiri, H.Matsuura, K.Iwasaki, T.Kato, M.K.Kaneko, Y.Kato, M.Tajiri, S.Akashi, O.Nureki, Y.Hizukuri, Y.Akiyama, T.Nogi
-
Journal Title
Science Advances
Volume: 8
Pages: eabp9011
DOI
Peer Reviewed / Open Access
-
-
-
-
-
-
-
-
-