2022 Fiscal Year Research-status Report
The multifaceted roles of cell cycle inhibition and its molecular mechanisms throughout the plant life cycle
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22K06261
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
伊藤 正樹 金沢大学, 生命理工学系, 教授 (10242851)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞周期 / 転写制御 / シロイヌナズナ / 細胞増殖 / 環境応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
DREAM complexはMYB3RやE2Fなど細胞周期に関連する遺伝子を制御する転写因子を複数含むタンパク質複合体である。シロイヌナズナから同定した複合体サブユニットの遺伝子破壊株を網羅的に作出し、表現型と遺伝子発現に与える影響について解析を進めている。G1/S期遺伝子に対しては、どの構成因子の変異体でも同じようなトランスクリプトームの変化を引き起こしたが、MYB3Rの欠失だけはG1/S期遺伝子にはほとんど影響しなかった。一方、G2/M期遺伝子に対しては、MYB3RとLIN37の欠失が類似の発現変化を引き起こしたが、他の因子の欠失による遺伝子発現変化とは異なっていた。反対に、TCXなどの構成因子の欠失は、互いに相関の高い遺伝子発現変化を誘導したが、MYB3R欠失の場合とは異なっていた。このような結果から、DREAM complexによるG1/S期遺伝子とG2/M遺伝子の制御の仕組みは異なっており、G2/M期遺伝子の制御にはDREAM complexに存在する二つ機能単位が半独立に関わっている可能性が考えられた。 ストレス下での細胞増殖抑制の仕組みとして、MYB3Rがジベレリン信号伝達因子DELLAとの相互作用を通じて転写を制御しているのではないかという仮説を提案している。この仮説を検証するために、ジベレリン生合成の阻害剤パクロブトラゾール(PAC)を処理したシロイヌナズナ芽生えを用いたトランスクリプトーム解析を行った。その結果、MYB3Rの標的であるG2/M期遺伝子のほとんどはPAC処理により発現が低下したが、MYB3Rの変異体では、このような発現低下が大きく緩和されていることがわかった。つまり、PAC処理によるDELLAの蓄積がG2/M期遺伝子を抑制すること、この抑制にはMYB3Rが必要であることを示唆しており、これらの結果はこれまでの仮説を支持するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DREAM complexは細胞周期G1/S期遺伝子の制御を担うE2Fと、G2/M期遺伝子の制御を担うMYB3Rを同時に含む転写因子複合体であり、ヒトやショウジョウバエから同定されているが、当研究グループは独自にこの複合体をシロイヌナズナから同定している。本研究により、植物の DREAM complexは、G1/S期遺伝子とG2/M期遺伝子を異なった仕組みで制御していることを示す結果が得られた。G1/S期遺伝子に対しては、動物で報告されている仕組みと同様に、構成因子が完全な複合体を構成することで初めて標的を制御していると考えられた。また、ヒトのDREAM complexの研究では、転写抑制に関わる複合体にはMybが含まれていないことが報告されており、機能を持たないMYB3Rを含む複合体がG1/S期遺伝子を制御するというシロイヌナズナにおける今回の結果と付合するものと考えられた。一方、G2/M期遺伝子の制御には、植物に特有の仕組みが非常に多く存在していることがわかった。動物のMybは専ら転写活性化に関わるが、植物の複合体を構成するMYB3Rは転写抑制を担っている。また、同じ複合体においてTCXとMYB3Rが異なる機能モジュールを構成して制御していることなど、当初予想していなかったメカニズムを示唆する結果が得られている。今後、このような標的遺伝子による制御の違いがどのようなメカニズムによって生じるのか、また動物と植物において見出された制御メカニズムの違いがどのような生理的な意義を持つのかなどについて、研究する必要がある。2022年度は、このような今後の研究につながる成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
シロイヌナズナのDREAM complexは、動物とは異なる仕組みで標的遺伝子に作用していること、とりわけG2/M期遺伝子の制御には二つの半独立の機能モジュールが存在していることを示唆する結果が得られている。DREAM構成因子の変異体を用いたトランスクリプトーム解析により示唆された植物特有の作用メカニズムについて、具体的な分子機構を明らかにしていく。特に複合体がどのようにして標的遺伝子を認識しているのかについては、植物では不明な点が多く残されており、本研究により中心的に研究を行っていく。DREAM complexが結合する標的遺伝子にエンリッチされるプロモーターモチーフをin silicoの解析により同定する。これと併せて、DREAM complexに含まれる複数のDNA結合タンパク質の変異が影響するトランスクリプトーム変化から作用のメカニズムを明らかにしていく。また、これまでに獲得しているDREAM構成因子の変異体を用いた表現型解析を行い、植物の発生過程における機能的な側面についても研究を進める予定である。 ストレス下での増殖抑制にMYB3R-DELLA複合体が関与しているのではないかという仮説については、酵母ツーハイブリッドで示唆されたタンパク質間相互作用が、植物細胞でも検出されるかどうかスプリットYFPの系を利用して確認する。さらに、塩ストレスによるトランスクリプトームの変化を、della多重変異体と抑制型myb3r変異体において解析し、それらの比較から共通の下流遺伝子を探索する。同定された標的遺伝子の候補に対して、クロマチン免疫沈降を行い、DELLAとMYB3Rが同時に結合しているかどうかなどについて解析する。
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Causes of Carryover |
計画通りに使用したが、僅かに残額(6円)が出たため、次年度に使用する。
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Research Products
(21 results)