2023 Fiscal Year Research-status Report
Biological significance of leaf reddening in plants under wintering; verification of the multiple roles of anthocyanin
Project/Area Number |
22K06263
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
酒井 敦 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (30235098)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アントシアニン / 赤色化 / 低温ストレス / 光ストレス / 葉温 / 低温光傷害 / 光化学系II量子収率 / 糖 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の主な研究実績は下記の通りである。 (1) 葉のアントシアニン含量と照射される光の強度が光照射下における葉温に及ぼす影響について、様々な植物材料を用いて調査を行い、①アントシアニンが蓄積すると葉の光透過率と反射率が低下し(従って吸収量は増加し)、②光照射下での葉温が上昇すること、③光強度が高い方がアントシアニン蓄積による葉温上昇効果が強くみられることを明らかにした。これらの結果は、アントシアニンによる光吸収が葉温の上昇をもたらしていることを示す。 (2) 葉の赤色化を誘導する条件について引き続き検討を行い、シロイヌナズナを①地下部のみを冷却する、あるいは②常温弱光下で糖を投与しつつ栽培することにより、葉の赤色化を誘導できることを示した。また、従来法により植物体全体を冷却しつつ光照射を行って赤色化させる場合、③照射光にUV成分が含まれなくても赤色化すること、④赤色光照射では赤色化せず、青色光照射では赤色化することを明らかにした。これらの結果から、シロイヌナズナの葉の赤色化はUVによる光化学系IIのOEC破壊を端緒とする光阻害が原因ではなく、低温による根のシンク機能低下がもたらす葉での糖の蓄積が原因であることが示唆された。 (3)赤色化を誘導したシロイヌナズナの葉を用いて、低温・光照射下における葉温、低温・強光照射に伴う光化学系II量子収率の低下、およびその後の回復について調査した。その結果、氷上にて1200μmol m-2 s-1の光照射を行った場合、赤色葉は周囲温度緑色葉に比べ低温・光照射下における葉温が高く、低温・強光照射処理に伴う光化学系II量子収率の低下幅が小さくなった。しかし、光強度がより低い/高い条件下ではその差が見られなくなった。以上の結果から、葉の赤色化は、一定の条件範囲において実際に低温光照射下における葉の光障害を防止できることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
シロイヌナズナを用いた葉の赤色化誘導条件についての検討が進んだこと、屋外および室内実験の両方で葉の赤色化(アントシアニンの蓄積)が低温光照射下での葉温の上昇と低温光ストレスに対する耐性の上昇をもたらすことが確認できたこと、実験的にその赤色化葉の有意性が発揮される環境条件の範囲を絞りこめたことは、本研究が概ね順調に進捗していることを示している。 しかしながら、前年度研究で課題として挙げられていた、 (1)光照射下における葉温の決定に関与するアントシアニン以外の因子の洗い出しについては大きな進展はなかった。また、(2)葉の赤色化が低温光照射に対する耐性の増加をもたらすメカニズムの解析、具体的にはフィルター効果とヒーター効果の相対的な寄与率の評価も未着手である。これらの諸点に加え、研究成果の取りまとめ・発表に関する論文公表の実績がまだないこと、再構成モデル葉を用いた解析、数理モデル構築に必要な基礎データの蓄積が未了である点などから、「やや遅れている」の評価を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である三年目(2024年度)は、引き続き(1)光照射下における葉温の決定に関与する因子の洗い出し、(2)低温・光照射下における赤色化の際、葉が実際に何を感知しどの様な仕組みでアントシアニンの合成・蓄積を行うのか、(3) 低温光照射下において赤色化葉が緑色葉よりも高い葉温、高い低温光傷害防止能を示すことができる光・温度環境条件の範囲のより精密な調査と考察を行い、それらの成果を取りまとめて発表するとともに、再構成モデル葉を用いた解析を行い、得られたデータをもとにシミュレーション解析を行う。
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Causes of Carryover |
経費の節約に努めた効果と、計画していた実験の一部(再構成葉実験)が未了となったため、そのために必要な酵素等の購入ができなかったことが重なった結果、次年度に使用する金額が発生した。 次年度は、先送りとなった再構成葉実験に必要な酵素等の試薬類の購入が当初計画分に加え必要となるので、そのための経費に充てたい。
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