2022 Fiscal Year Research-status Report
真核光合成生物における貯蔵物質代謝を介した生存戦略の解明
Project/Area Number |
22K06299
|
Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
八木沢 芙美 琉球大学, 研究基盤統括センター, 准教授 (70757658)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 光合成真核生物 / Galdieria / 生存戦略 / 細胞内形態 / 代謝変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物は栄養の枯渇など細胞が増殖・成長できない環境下においても、長期間、生存することがある。光合成真核生物におけるこのような非増殖・非成長下における細胞の生存戦略は、貯蔵物質の代謝変動を含め、ほとんど理解されていない。本研究では、(1) 真核の光合成生物としてゲノムサイズが最小クラスであり(~20 Mb)、(2) 幅広い環境で生存でき、(3) 形質転換系が確立された単細胞紅藻 Galdieria (ガルデリア)等をモデルとして研究を進めている。2022年度は、解析に必要な実験系を構築するため、細胞が非増殖・非成長下において生存する条件を探索した。以下に内容を示す。
1. 炭素(C)の欠乏による条件:ガルデリアを糖添加培地において培養した後、糖を含まない培地で培養した。糖欠乏下においてガルデリアは増殖を停止させる一方、長期に渡って生存できることが明らかとなった。なお、光合成による影響を排除するため、培養は全て暗所で行った。また、糖欠乏下において、細胞やオルガネラに起こる形態変化が明らかとなった。 2. Cや光の不足以外の要因による条件:通常の独立栄養培地 (糖を含まない無機培地) をベースに培地組成等を検討し、Cや光の不足以外の要因によって、非増殖・非成長下において細胞が生存する条件を検討し、目的の条件を得た。1と同様に細胞や細胞内の形態変化が明らかとなった。 3. 2の条件において、明所と暗所で培養を行った。生存率等に違いが見られたことから、細胞が増殖・成長せず、生存するための応答が光環境によって異なることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、ガルデリアを用いて細胞が増殖、成長せず生存する条件を探索した。この結果、目的に合致する条件を複数得ることができた。また、それぞれの条件における細胞や細胞内の形態変化が見出され、生存戦略を理解する上で必要な知見と考えられる。これらの成果をもとに、2023年度以降は、トランスクリプトーム解析などによって、貯蔵物質代謝を含む代謝変動を解析し、非増殖・非成長環境における細胞の生存戦略の解明を進めていく。以上のように研究は順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
光合成真核生物において非増殖・非成長下における細胞の生存戦略を明らかにするため、引き続き単細胞紅藻ガルデリアを用いて研究を進める。2022年度中に設定した細胞が増殖・成長せず生存する条件(Cの欠乏による条件およびCや光の不足以外の要因による条件)を基盤に以下の内容を行う予定である。
1. 細胞を通常条件で生育させた後、各種の増殖・成長せず生存する条件で培養し、経時サンプリングを行う。細胞やオルガネラの経時形態変化をより詳細に明らかにするほか、光合成活性・呼吸活性等の測定、貯蔵物質の定量、トランスクリプトーム解析等を行い、当該の条件下における代謝の変動を明らかにする。 2. 光合成真核生物において、光の照射は光合成によるエネルギーの獲得を可能とする一方、活性酸素を発生させ、酸化ストレスを引き起こす原因でもある。したがって、光の有無によって細胞の生存戦略は異なると予測され、2022年度の研究によってもこの違いが示唆された。異なる光環境における、非増殖・非成長下における細胞の生存戦略を明らかにするために、今後は細胞を明所・暗所かつ細胞が増殖・成長せず生存する条件(Cや光の不足以外の要因による条件)で培養し、細胞の状態を解析する。このために1と同様に細胞やオルガネラの経時形態変化や、代謝変動を解析する。 3.1、2の解析で得られた結果を比較解析することによって光合成真核生物における非増殖・非成長下での細胞の生存戦略戦略についてモデルを提唱したい。
|
Causes of Carryover |
本研究計画を他研究室との共同研究で行ったことなどから、2022年度は物品費やその他(シーケンシング解析等)などの負担額が減り、計画より支出減となった。2022年度の成果を踏まえると、2023年度以降はシーケンシング解析等の必要性が増す見込みである。また、本研究計画の遂行に必要な消耗品や受託解析等の価格が上昇している。このため、差額分は物品費やその他に使用する計画である。
|