2023 Fiscal Year Research-status Report
ピースミールマイトファジーにおける膜構造変換プロセスの3次元モデル解析
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22K06300
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
荒井 律子 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (10342742)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | マイトファジー / オートファジー / 光-電子相関顕微鏡法 |
Outline of Annual Research Achievements |
『マイトファジー』とは、細胞内大規模分解系であるオートファジーを介してミトコンドリアを選択的に分解する現象であり、ミトコンドリア機能の異常性から生体を守ろうとする重要な細胞応答機構である。近年になり、鉄欠乏もしくは低酸素ストレスのような生理学的環境変化によって、ミトコンドリア構造の一部がかじりとられる‘ピースミール’マイトファジーが誘起されることが分かってきた。この時小胞体を介して新生される『隔離膜』がミトコンドリアの標的領域を隔離するはずであるが、その膜構造変化の詳細については不明な点が多く残されていた。本研究では同マイトファジーの進行プロセスを微細形態学的な見地から明らかにすることを目的としている。本年度は、ピースミールマイトファジーにおける隔離膜形成の初期プロセスについて、CLEM(光-電子相関顕微鏡法)を用いた解析を行った。その結果、隔離対象となるミトコンドリア表面上において、隔離膜形成初期因子を伴うミトコンドリア-小胞体コンタクトサイトが形成され、その後同サイトより隔離膜新生が開始することが分かった。この時、隔離膜受容体の可能性のあるBNIP3/NIX(ミトコンドリア外膜タンパク質)を欠損すると、同コンタクトサイトが形成されるものの、その後伸長中の隔離膜がミトコンドリア表面から遊離してしまう様子が観察された。昨年度までに、ピースミールマイトファジーが発動すると、小胞体を経由した隔離膜形成がミトコンドリア表面上で開始し、その後の継続的な隔離膜の密着的伸長によってミトコンドリア構造の部分隔離が進行するという3次元微細形態モデルを提唱したが、BNIP3/NIXがこの密着伸長に寄与していることが本年度の研究により明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、これまでに独自に改良・確立した電子顕微鏡法-隔離膜検出のための特殊固定法、電子線トモグラフィー、CLEM(光-電子相関顕微鏡法)、免疫電子顕微鏡法-の複合的応用利用を図り、哺乳類細胞ピースミールマイトファジーにおける隔離膜構築過程と機能分子の役割を3次元微細形態モデル上で同時に明らかにすることを目的としている。隔離膜検出のための特殊固定法(アルデヒド・四酸化オスミウム混合液による細胞固定)および電子線トモグラフィーを用いた解析を概ね終了させた昨年度に続き、本年度はCLEM(光-電子相関顕微鏡法)を用いた解析を実践し、隔離膜形成初期プロセスにおけるミトコンドリア-小胞体コンタクトサイトの形成およびミトコンドリア上での隔離膜密着伸長に関わる因子の存在について、微細形態学的に明示することに成功した。本年度において生理学的重要性を有するマイトファジープロセスの研究を前進させることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに独自に改良・確立した電子顕微鏡法-隔離膜検出のための特殊固定法、電子線トモグラフィー、CLEM(光-電子相関顕微鏡法)、免疫電子顕微鏡法-を用いて、ピースミールマイトファジーに関与すると考えられる分子(小胞体膜の脂質構成変化と新生膜構築の開始に関わると考えられる分子、小胞体から隔離膜への脂質供給を担うと考えられる分子、および、隔離膜のクロージングとミトコンドリア膜の分断に関与する可能性のある分子)の役割について解析を進める。以上の解析により、小胞体から隔離膜新生における脂質変換メカニズムおよび隔離膜伸長と並行して起こるミトコンドリア構造の部分隔離の完了に至るメカニズムについて、分子細胞生物学的・微細形態学的新奇知見を得る。本研究計画全体を通して得られる成果は、低酸素ストレスや鉄欠乏など身体において頻繁に生じると考えられる生理学的変化に対応するためのミトコンドリア調節機構を解明する上で極めて重要な位置を占めると考えられる。次年度は全成果を統合し、関連学会および国際的学術誌上にて発表する。
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Causes of Carryover |
本年度はコンピューターを用いた画像解析に費やす時間が想定よりも多くなったため、細胞培養、細胞染色、電子顕微鏡試料作製等のウェット実験に使用する予定であった物品費において次年度使用が発生した。この次年度使用分については、次年度に計画しているウェット実験の遂行、研究成果を学会等で発表するための旅費、学術誌上発表を行うための校閲・出版費として支出する予定である。
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