2022 Fiscal Year Research-status Report
行動テストにおける生理指標の同時取得による魚類の情動状態の精密な評価
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22K06316
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 将之 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 准教授 (70253119)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
曽 智 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (80724351)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 呼吸波 / 情動 / 行動テスト |
Outline of Annual Research Achievements |
行動中の魚から呼吸波を記録する手法の開発をおこなった。基本的技術の確立のため、ゼブラフィッシュを実験材料として検討した。水槽内に設置した4-5対のステンレス電極により呼吸に伴う生体電気現象を多チャンネル導出し、増幅・周波数フィルタののちにパソコンに取り込み、解析した。また電気的記録と同期したビデオ撮影により魚の行動を記録した。ビデオ映像から魚の位置・姿勢を算出し、これに基づいて複数の電極対から得られた信号を統合処理することにより、単一の統合呼吸波を得た。これらの処理に用いたソフトウェアはLabViewプラットフォームにより作成した。 この成果をゼブラフィッシュに対する薬効評価に応用し、エタノールとカフェインが新奇環境における不安情動の発現と慣れの過程に及ぼす効果を検討した。この検討では、ゼブラフィッシュを新奇環境(オープンフィールド)に導入したときに不安情動が惹起され、時間の経過とともにその環境に馴化するにつれて不安情動が減ずるという実験系を利用した。オープンフィールド水槽には複数対の電極が配置され、呼吸波が計測された。また魚の行動は、呼吸は計測と同期したビデオ撮影により記録した。その結果、行動指標に加えて生理指標(呼吸)を評価基準に加えることにより、行動テストのみに依存する評価法と比べてより精密に薬効を評価できることが示唆された。これらの成果は、専門学術誌に投稿され、印刷公表された(Harada et al., 2022, Scientific Reports, 12, 17649; Yoshida, 2022, Physiology & Behavior, 257, 113978)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄に記載したとおり、本研究の目的の一つである、行動中の魚からの呼吸波記録と、従来から広く用いられている新奇場面テスト等の情動測定行動テストとを組み合わせ、新奇環境への魚の順化過程を行動・生理の両面から記載する、という課題が順調に達成されつつある。しかし一方、初年度のもう一つの目的である、本研究で開発した呼吸波を記録する手法を多魚種へ適用し、その有用性を検討する、という点については未着手である。しかしながら、本研究で開発した手法は、その装置を含めて複雑さは高度でない。従って、多魚種への適用可能性の検討には大きな困難は予想されない。そのため「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」に記載したとおり、初年度のもう一つの目的である、本研究で開発した呼吸波を記録する手法を多魚種へ適用し、その有用性を検討する、という点については未着手である。しかしながら、本研究で開発した手法は、その装置を含めて複雑さは高度でないため、少なくとも淡水魚においては検討に困難さは予想されない。また、2022年度に予定されていた「呼吸波記録と新奇場面行動テストとを組み合わせることによる、魚の馴化過程の行動・生理の両面からの記載」については、既に先行して進展しているため、2023年度は、2022年度に計画されていた「本研究で開発した呼吸波を記録する手法を多魚種へ適用し、その有用性を検討する」について取り組み、魚の形態や行動様式と呼吸波との関係についての一覧を作成し、生物学的な知見の集積とともに将来的な研究展開のための礎とする。海産魚については、海水の電気伝導特性から鑑みて、呼吸波の記録が困難であることが予想される。従って、環境水の塩濃度と呼吸波記録との関連も検討する必要がある。本研究では、この検討のためにメダカを実験材料とする。メダカは広塩性魚類であり、淡水から海水まで適応することができる。従って、さまざまな塩濃度の水中でメダカの呼吸波を記録し、環境水の塩濃度と記録される呼吸波との関係を明らかにする。また、多数の電極対から記録された呼吸波の統合については、概ね実現しているが、より信頼度を高め、応用展開するには、その精度をさらに高める必要がある。従って、この点についても従来通り研究を推進する。
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Causes of Carryover |
当初目的として、本研究で開発した呼吸波記録手法を多魚種に応用し、その有用性を検討する、ことが課題となっていたが、コロナ対応のためサンプル収集が十分にできず、実験が成立しなかった。よってこれに予定されていた経費が未使用であった。そのため、同じく当初目的である呼吸波記録を行動テストに加えるという課題の推進に注力し、こちらに予算を使用した。しかしながらこのための追加経費は比較的少額に収まったため、結果的に次年度使用額が生じることとなった。2023年度には、当初計画の遂行が可能であると予想されることから、そのための予算執行を計画している。すなわち、採集した魚類の飼育環境整備と維持、および魚種に応じた呼吸波記録装置の作成のための各種消耗品を購入する。
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Research Products
(4 results)