2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K06322
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
周防 諭 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (20596845)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | C. elegans / 交尾 / 忌避行動 / 精子 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物のメスは、オスからの交尾を受け入れるか拒否するかを選択する。射精された精子はメス体内で貯蔵され、この貯蔵精子は交尾の受け入れを決定する上で重要であると考えられているが、精子がメスの行動にどう影響するかは不明な点が多い。本研究では、線虫C. elegansの雌雄同体のオス忌避行動と貯蔵精子の関係を解明することを目的とする。C. elegansの雌雄同体は自家受精も行うがオスとの交尾も可能である。これまでに精子異常の変異体では雌雄同体のオス忌避行動が低下することを明らかにしている。さらに、オスと交配後の雌雄同体は忌避行動が低下していた。以上の行動変化は、雌雄同体が自身の遺伝子をより多く子に伝えるために適応的である。 オス忌避行動は、オスと雌雄同体が接触している時の移動速度を、雌雄同体が単独でいる時の速度との比較で計測している。忌避行動の低下が実際に交尾を増加させるか調べた。オスは交尾の際に特徴的な姿勢をとるので、それが起きる頻度を測定した。その結果、精子異常変異体のような忌避行動が低下している場合では、交尾姿勢をとる頻度も上昇していることが確認された。ここではビデオを観て、目視で数えたが、これを自動で行うプログラムを作成中である。 また、C. elegansの研究では標準の野生型としてN2株が用いられるが、別の野生型であるHawaiian株は交尾の効率が良いことが知られている。Hawaiian株について測定を行い、Hawaiianのオスと雌雄同体の組合せでは、N2よりもオス忌避が弱いことを示した。さらに、N2とHawaiianのオス、雌雄同体の組合せで実験を行うことで、このオス忌避の低下は、オス、雌雄同体のどちらの影響か調べた。その結果、オス、雌雄同体いずれも影響があることが示された。他にも、いくつかの神経伝達変異体について解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
線虫C. elegansには、オスと雌雄同体が存在し、雌雄同体は形態的にはメスで、自己の精子を用いた自家受精の他に、オスとの交尾も行う。オスから射精された精子はメス体内に貯蔵されるが、本研究では特に、この貯蔵精子のオス忌避行動における役割を明らかにする。 これまでに、雌雄同体はオスと接触すると速度を上昇させ逃げることを見出している。さらに、雌雄同体の精子の分化、形態形成、機能に必要な遺伝子の変異体では、雌雄同体のオス忌避行動が低下していることを明らかにした。複数の精子異常変異体で同様の行動の異常が見られたことから、オス忌避行動には何らかの形で精子が必要である。さらに、野生型の雌雄同体をオスと交配させた後に、オス忌避を計測すると、オス忌避行動は精子産生変異体と同程度に低かった。さらに、このような忌避行動が変化することによって、オスと雌雄同体が接触している時間も変化するし、交尾が起きる頻度も変化することを確認した。このような行動の変化は、自己精子がある時にはオスとの交配を忌避し、精子がない場合および既にオスの精子が貯蔵されている場合にはオスとの交配を受け入れることで、雌雄同体の遺伝子がより多く子に伝わるようにできるので、適応的であると考えられる。 C. elegansのHawaiian株は、標準の野生型N2よりも効率よく交尾を行うことが知られている。これまでに、Hawaiian株ではN2よりもオス忌避行動が低下していることを明らかにしている。さらに、これは、オスと雌雄同体両方に起因することも明らかにした。 本年度に計画されていた発現解析については、まだ着手していないが、まず別の研究からのデータを用いて解析を行っていく。Hawaiian株の解析や、交尾の解析など予定以外の結果もあるが、候補遺伝子の解析はまだ完了していないので、(2)やや遅れている、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
精子によるオス忌避行動の制御メカニズムを解析するために、精子シグナルに関与する可能性のある遺伝子の変異体の解析を行う。神経伝達に関与する遺伝子の変異体の解析を継続して行うことで、精子シグナルに関わる神経伝達物質を明らかにする。また、これまでに行われている遺伝子発現解析によって、精子異常変異体の雌雄同体において発現が変化している遺伝子について、神経伝達に関わっていると考えられる遺伝子で入手可能な物から変異体の解析を行い、オス忌避行動に関与している遺伝子を探索する。 また、Hawaiian株では、標準株N2よりもオス忌避行動が低下しており、オスと雌雄同体両方の効果であることを明らかにしている。Hawaiian株でN2と多型が見られ、その結果行動変化が起こる遺伝子が既にいくつか報告されている。これらの遺伝子の変異体を解析することで、Hawaiian株での行動変化に関わる遺伝子の同定を試みる。さらに、これらの遺伝子が精子と関係あるか調べる。 ここまでの研究で精子がオス忌避行動に関与していることを明らかにしているが、これは、精子そのものが雌雄同体内で検出されて忌避行動の変化をもたらすのか、それとも、精子が卵子を受精してできる受精卵が忌避行動に関わるのか明らかとなっていない。ここまでの解析で、配偶子の性決定、精子の形成、精子の機能、いずれに異常が見られる変異体についてもオス忌避行動が減少していることが確認されている。従って、精子が存在していても機能を持たない場合は精子による行動変化が起きない。さらに別の精子異常の変異体を解析するとともに、受精卵が行動変化を起こす可能性についても受精や卵子の変異体について行動解析を行い検証する。
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Causes of Carryover |
2023年度の実験は行動解析が中心となり、比較的低コストの実験が中心となった。また、国際学会が高価で参加を見送ったので、次年度使用額が生じた。 2024年度は、やや遅れている分の研究を遂行するために、より多くの実験を行い、多くの研究費を使用する予定である。また、委託解析などを行うことで次年度使用分を使用する予定である。
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