2023 Fiscal Year Research-status Report
Mechanism of lineage-specific gene regulation by retrotransposons
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22K06338
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
西原 秀典 近畿大学, 農学部, 准教授 (10450727)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | レトロトランスポゾン / 転移因子 / エンハンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
系統特異的に転移増幅を繰り返してきたレトロトランスポゾンは多数のエンハンサーのシード配列を創出し、それが生物種間の遺伝子発現の差異をもたらした可能性がある。これを定量的に検証するため、ヒト神経細胞の分化過程で機能する転移因子由来のエンハンサーを網羅的に探索した。ヒトES細胞における転写活性化因子Sox2の結合サイトが7000箇所以上存在し、そのうち約40%が転移因子に由来していることが示された。またES細胞から神経前駆細胞に分化する過程で転移因子由来のSox2結合領域の数が1.5倍に上昇することも明らかにした。その種類について精査したところ、ES細胞特異的な結合サイトにはLINEの一種であるL1の一部サブファミリー、および内在性レトロウイルスERV1に属する複数のファミリーが含まれることが明らかになった。特にその一部は霊長類もしくは真猿類の共通祖先において転移増幅した因子であった。さらに各転移因子配列における結合サイトの位置を解析したところ、一部のERV1およびL1のコンセンサス配列内部における結合部位の偏りが見られた。一方、神経前駆細胞においては比較的古い時期に転移した転移因子が高頻度で検出されるなど、ES細胞との間に明確な差が観察された。このことから、哺乳類の進化の過程で段階的に増幅したレトロトランスポゾンが神経細胞分化で機能する転写因子結合サイトの獲得に大きく寄与したことが示唆された。特に霊長類特異的な転移因子ファミリーの寄与が明らかになったことから、本研究の目的の一つであるエンハンサー候補配列の分布の種間差に対するレトロトランスポゾンの貢献度を定量的に評価することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの解析結果から、霊長類特有のERV1の一部ファミリーがヒトES細胞におけるSox2結合部位の系統特異的増幅に寄与したことが明らかとなり、本研究の目的の一部は達成された。一方、当初の計画時には神経分化過程で機能するエンハンサー候補配列の方が系統特異的な転移因子ファミリーに由来すると考えていたが、この予想と逆の結果が得られたことは極めて興味深く、今後の研究の方向性について重要な示唆が得られたと考えている。また具体的なレトロトランスポゾンの種類としてL1が同定され、以前の乳腺由来細胞を用いた先行研究で最も重要であったL2が今回検出されなかったことに関しても、細胞種もしくは発現ネットワークごとに利用される転移因子のレパートリーが異なる可能性を示唆しており、重要な発見であったと考えている。以上のことから本研究は順調に進行中であると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで得られたレトロトランスポゾンへの結合因子の解析結果に関しては、ES細胞と神経前駆細胞において機能的転移因子の種類になぜこのような差異が見られるのかについて未だ課題として残されている。この疑問に対するアプローチの一つとして、Sox2と協調的に機能する別の転写活性化因子を解析する予定である。もし細胞種に応じて機能する転移因子の種類が決まるならば、Sox2の場合と同様にES細胞ではL1およびERV1への結合が高頻度で検出されると想定される。一方、神経前駆細胞におけるSox2結合サイトの分布は、L1以外のLINEやERV1以外のLTR型レトロトランスポゾンも含め様々な種類が検出されており、その中に何らかの偏りが存在するかを解析することを予定しており、また培養細胞を用いた実験的検証も視野に入れている。
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Causes of Carryover |
前述のように本研究で観察された転写因子が結合するトランスポゾンの種類の差について、詳細を精査するための解析が主となったことから今年度の未使用額が生じた。今後は複数の転写因子の結合パターンの解析に加え、その結合領域がエンハンサー機能を有するか否かについて培養細胞を用いたアッセイを含めて明らかにする予定であり、未使用額をそのために使用する。
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Research Products
(7 results)