2022 Fiscal Year Research-status Report
環境への適応を特徴づける哺乳類嗅覚受容体遺伝子の探索とその機能解析
Project/Area Number |
22K06341
|
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
新村 芳人 宮崎大学, 農学部, 教授 (90396979)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊原 さよ子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (80292788)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 嗅覚受容体 / 遺伝子ファミリー / 化学感覚 / 遺伝子重複 / アフリカ獣類 / 多型 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、以下のような研究実績を得た。 アフリカゾウは、これまで知られている中で哺乳類最多の約2000個もの嗅覚受容体(OR)遺伝子をもつ。ゾウがなぜこれほど多くのOR遺伝子を保持しているかは不明である。一方、ゾウ(長鼻目)はアフリカ獣上目に属し、水性適応した海牛目(ジュゴン・マネティー)と進化的に近縁である。一般に水性適応した哺乳類では嗅覚は退化する傾向にあり、海牛目も例外ではないが、水棲哺乳類としては最多の400個以上のORを遺伝子を保持している。そこで、ゾウや海牛目を特徴づけるOR遺伝子を明らかにするため、ゲノム情報が利用可能なアフリカ獣上目のゲノム配列からOR遺伝子を網羅的に同定し、それらをオーソログ遺伝子群に分類して、進化過程における遺伝子の増減を明らかにした。さらに、フェロモン受容体であるV1R遺伝子、味覚(苦味)受容体であるT2R遺伝子についても同様の解析を行った。 イヌは現在400ほどの品種が知られているが、それらのほとんどは、人為淘汰によってここ数百年の間に急速に進化してきたものである。イヌの品種の中には、セントハウンドなど、嗅覚能力によって選択されてきた品種もいる一方、パグなどマズルの短い犬種は嗅覚が劣っているとも言われる。そこで、イヌの品種間における嗅覚能力の差を遺伝子レベルで明らかにするため、数百個体のイヌの多型データを収集し、品種間のOR、V1R、およびT2R遺伝子レパートリーの違いを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アフリカ獣上目間の解析については、すでにOR遺伝子の増減の推定が終了し、V1R、T2R遺伝子の同定も行った。さらに、新規の高精度アジアゾウゲノムからOR遺伝子を抽出し、アフリカゾウとの詳細な比較を行っている。イヌの多型データ解析に関しては、特定の系統でOR遺伝子が偽遺伝子化していることを明らかにした。さらに新たな解析として、食肉目の鰭脚類およびカワウソ亜科の系統における水性適応の過程において、どのようなOR遺伝子が失われたかを明らかにするための解析を始めた。以上のことから、研究はおおむね順調に進捗していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
アフリカ獣上目の解析およびイヌの多型解析に関しては、データをまとめて学会で発表し、フィードバックを得て論文としてまとめる予定である。さらに、ゾウの系統で特異的に増加したOR遺伝子や特定のイヌの品種において失われたOR遺伝子を明らかにし、その機能を実験的に明らかにする予定である。
|
Causes of Carryover |
2022年度はすでに研究室にある解析用サーバを使って解析を行ったため未使用額が生じたが、かなり古いマシンでありスペックも不足しているため、2023年度に新規サーバを購入した。また、2022年度は新型コロナウイルス感染症のため対面での学会や研究打ち合わせが中止となったが、2023年度には積極的に国内・国際学会に参加し、発表を行う予定である。
|
Research Products
(5 results)