2022 Fiscal Year Research-status Report
適応度進行波モデルと集団遺伝学に基づくクローン干渉を伴う適応進化の解明
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22K06347
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡田 崇 京都大学, 医生物学研究所, 准教授 (10741043)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | クローン干渉 / 領域拡大 / 集団遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
既存のクローン干渉の理論研究は、非常に単純なモデルに留まっている。より現実的な状を考えるために、集団内に協力的な相互作用が存在するモデルや環境パラメータが時間・空間に依存するようなモデルを考え、数値シミュレーションによって、それらの効果が遺伝的多様性に及ぼす効果を調べた。 また、本研究の主眼はクローン干渉にあるが、類似の効果が空間拡大をする集団においても見られることが、過去の理論的研究から示唆されている。このことを実データに基づいて検証するために、空間拡大する集団の例として、英国におけるコロナウイルスの遺伝的データを解析し、遺伝的多様性に関する特徴量を解析した。予備的な解析結果ではあるものの、クローン干渉や空間拡大の理論から期待される振る舞いを確認することができた。また、空間的な遺伝情報をシステマティックに解析するために、隠れマルコフモデルに基づく新しい集団遺伝学的統計手法を開発した。従来の集団遺伝学的統計手法は、現在のサンプルから過去の遺伝的多様性を推定する、つまり時間的に逆方向の統計手法(coalescent theory)である。この手法はコロナウイルスのようなサンプル数が多い状況では計算コストが非常に大きくなるという欠点をもつ。一方で、今回開発した手法は、通常の時系列解析のように時間的に順方向の解析であり、サンプル数が大きい状況でも比較的小さい計算コストで推定を行うことができる。得られた結果の一部は、アメリカ物理学会 March meeting 2023において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、コロナウイルスのデータ解析は研究計画の後半で実施する予定であった。しかし、いくつかの理論的な予想が得られたため、それを早めに検証する方が今後の研究を効率的に実施できると考え、コロナウイルスのデータを初年度から解析するいう方針に変更した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画のとおり、今後も実際の遺伝的データの解析と理論的数理研究の2つを並行して進めていく。実際の遺伝的データの解析に関しては、コロナウイルスの遺伝的データを引き続き解析し、実際のデータにおいてクローン干渉や領域拡大の効果がどのように現れているかをより詳細に明らかにする。また、コロナウイルスを解析する際に自身で開発した統計手法は、他の生物種の空間ダイナミクスを調べることにも利用できるので、今後インフルエンザウイルスにも適用する。クローン干渉の理論的研究に関しては、数値シミュレーションだけでなく、物理学の量子力学系で用いられる理論手法を応用することで、解析的理解の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスに関して重要な結果が得られたため、研究計画後半に予定していた国際学会(アメリカ物理学会)での発表を令和4年度に行った。それに付随して、国内での学会出張を令和4年度は見合わせる必要があったため、次年度使用額が生じた。この次年度使用額については、国内での学会発表および研究打ち合わせ・調査の出張費用として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)