2022 Fiscal Year Research-status Report
無脊椎動物の淡水環境への適応進化と種多様化:島嶼の甲殻類をモデルとして
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22K06373
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
富川 光 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (70452597)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 種多様性 / 系統 / 分類 / 甲殻類 / 端脚目 / 浸透圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,甲殻類を対象として,無脊椎動物の異なる塩濃度環境への適応進化を明らかにすることを目的としている.研究の初年度である本年度は,多様な塩濃度環境における甲殻類の種多様性の解明と系統関係の推定を行なった. 端脚目のメリタヨコエビ属は海域で種多様性が高く,少数の汽水・淡水産種が知られている分類群である.今年度は小笠原諸島および南西諸島の汽水・淡水域から得られた本属の種について系統分類学的研究を行ない,4新種を記載するとともに分子系統解析により系統関係を明らかにした.本研究の結果,小笠原諸島の淡水域に出現する2新種は系統的に近縁ではなく,それぞれ南西諸島および本州に生息する種と近縁であることが明らかになった.これらのことから,小笠原諸島においてメリタヨコエビは少なくとも2回独立に淡水域に進出したことが示唆された. メクラヨコエビ属は地下水性の端脚目の1グループで,日本を中心とする東アジアで種多様性が高い.本属はこれまで南西諸島からの報告は無かったが,与那国島の洞窟地下水から本属の種が得られたため,分類学的位置を確定するために系統分類学的研究を行なった.その結果,本種は未記載であることが分かったため新種記載を行なった.さらに分子系統解析および分岐年代推定により,メクラヨコエビ属の進化史を推定したところ,約2000万年前の日本列島の形成(大陸からの分離)が本属の種多様性に大きく寄与している可能性があることを明らかにした. ナギサヨコエビ科は海水,汽水,淡水域といった多様な塩濃度環境に出現する端脚目の分類群である.栃木県および静岡県の河川間隙水から本科のチカヨコエビ属の2未記載種が得られたため,系統分類学的研究を行ない,記載論文を公表した.さらに,分子系統解析と祖先形質復元により,海域から汽水・淡水域(地下水)への進出が本科の種多様化に寄与した可能性を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,多様な環境に生息する甲殻類の種多様性の解明と系統関係の推定について,当初予定していた計画通りに進めることができた.また,これら得られた成果を学術論文として公表することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降も引き続き,様々な塩濃度環境を対象にフィールドワークを実施し,種多様性の解明と系統関係の推定を進めて行く.また,異なる塩濃度環境における浸透圧調節器官の比較形態学的研究および低塩濃度環境における浸透圧調節機構を明らかにするための室内実験を行なう予定である.
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Causes of Carryover |
遺伝子解析サンプル数が当初の予定よりも少なくなったため,解析に係る試薬や機器使用費が少なくなった.当該年度の野外調査により解析に用いるサンプルの数は十分量が確保されているため,これらは次年度の解析にまわす予定である.
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