2022 Fiscal Year Research-status Report
捕食回避のための托卵は多種の共存を促進するか?―ダニ類を用いた実証―
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22K06385
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
長 泰行 千葉大学, 大学院園芸学研究院, 准教授 (90595571)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 托卵 / 捕食者ー被食者間相互作用 / ギルド内捕食 / 捕食回避 / 生物多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ミヤコカブリダニ(以下、ミヤコ)が卵を保護する習性をもつキイカブリダニ(以下、キイ)に托卵することで、両者の卵を捕食するミカンキイロアザミウマ(以下、アザミウマ)とともに共存しやすくなる、という仮説を検証するものである。本年度は、ミヤコがキイに托卵をするのか、という研究のスタートとなる重要な現象について検証を行った。 ミヤコは、アザミウマ1齢幼虫が存在する状況でキイ母親が卵を守っている産卵場所に好んで産卵することが分かった。この産卵選好性には、キイの母親ではなく卵の存在が関与していた。また、卵の保護をしないチリカブリダニの卵を産卵場所に追加しても、ミヤコは産卵選好性を示さなかったことから、種を認識するだけでなく、捕食に関する薄めの効果を期待してキイに托卵するわけではないことが分かった。ミヤコの卵は、単独である状況よりもキイが卵を保護している状況で生存率が高く、ミヤコの繁殖はキイの存在によって増加することから、托卵の利益が確認された。一方、キイは産卵場所にミヤコの卵が加わること自体の影響は受けないが、産卵するミヤコの卵捕食によって負の影響を受けた。さらに、ミヤコはアザミウマがいない場合に托卵するとキイの母親によって孵化する幼虫を捕食されるコストを負うことが分かった。キイへの托卵が卵捕食をしないナミハダニをミヤコに餌として与えた際に観察されなかったことからも、ミヤコにとっての托卵のコストが支持された。 本年度の研究成果は、ミヤコがキイに托卵をし、その托卵にはコストがかかるため卵捕食の危険があるときのみにミヤコは托卵することを示したものである。これらの成果はフィンランドで開催された第26回国際昆虫学会および第67回日本応用動物昆虫学会で発表を行ったのみならず、論文として国際学術誌であるFunctional Ecologyへの掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、卵を保護する種(キイカブリダニ、以下、キイ)と保護しない種(ミヤコカブリダニ、以下、ミヤコ)が卵捕食者(ミカンキイロアザミウマ、以下、アザミウマ)とともに自然界で共存する機構として托卵が重要な役割を果たすことを示すため、以下の3点、(I) アザミウマによる卵捕食のリスクに対するミヤコの産卵選好性、(II) ミヤコの産卵に対するキイの産卵選好性と卵の保護、(III) アザミウマによる卵捕食のリスクに応じたキイ・ミヤコ・アザミウマの共存、について注目して研究を行う予定である。本年度は、上述の「研究実績の概要」で説明した通り、主に(I)のに内容について検証を行い、学会発表や学術誌を通じた社会への成果の公表へと結びつけた。また、2022年にフィンランドで行われた、第26回国際昆虫学会では、海外の研究者とも有意義な議論を交わし、論文の作成だけでなく今後の研究計画についても役立てることが出来た。 上記のような理由から、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を今後推進していくうえで来年度は、 ミヤコカブリダニ(以下、ミヤコ)の産卵に対するキイカブリダニ(以下、キイ)の産卵選好性と卵の保護、について検証を行う予定である。本年度の研究によって、ミヤコはキイに托卵することが明らかとなり、キイはミヤコによる托卵によって自身の卵をミヤコに捕食されるリスクがあることが分かった。一方で、ミヤコの卵はキイにとって影響を及ぼさなかった。しかしながら。ミヤコの卵の存在は、そこからミヤコの幼虫や若虫が出現することを意味し、それらがキイにとって負の影響を及ぼす可能性は排除できていない。そこで、キイの繁殖及び自身の産卵場所に対する選好性がミヤコの卵の存在によって受ける影響について、ミヤコの卵の数を操作することで捕食リスクを操作して検証する。その際、ミヤコ以外の種の卵からも受ける影響を排除するため、チリカブリダニの卵をコントロールとして用いる。 来年度は、共同研究者でもあるオランダ・アムステルダム大学のArne Janssen博士のもとを訪問し、実験方法、結果の解析、実験の解釈などについて議論を行う予定である。しかしながら、世界情勢は新型コロナウィルスやロシアのウクライナ侵攻といった不安定な状況にあり、状況をみながら最終年度に延期することも視野にいれている。
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Causes of Carryover |
研究に必要な消耗品を購入するうえで端数が生じ、不要なものを無理して購入するのは無駄と判断したために、次年度使用額が生じた。 実験動物の飼育のために必要な消耗品を購入する予定である。
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