2023 Fiscal Year Research-status Report
花のUVA反射が送粉者の花選択に与える影響と、送粉者の色覚が植物群集に及ぼす効果
Project/Area Number |
22K06400
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石井 博 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (90463885)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 送粉者 / 紫外線 / 花色 / ハエ目 / ハナバチ |
Outline of Annual Research Achievements |
ハナバチ類とハエ目に対する誘引に、UVA反射の有無がどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的に、昨年に引き続き、中部山岳国立公園立山の室堂平(標高2400 m付近)で、捕虫トラップを用いた野外実験を行った。トラップの種類による影響を排除するため、これまで用いたパントラップではなく、2023年度は粘着トラップを用いて実験を行った。その結果、概ねパントラップを用いたときと同様の傾向が得られた。すなわち、短角亜目は、ほぼすべての科で、W-(UVAを反射しない白)で最も多く捕獲され、W+(UVAを反射する白での捕獲数は少なかった。また、ハナバチ類には、Y-よりもY+で多く捕獲される傾向があったが、W+とW-の間では捕獲数に一貫した違いは見られなかった。短角亜目やハナバチ類の紫外線反射の有無に対する反応が、トラップの種類に依らず一貫していたことから、観察された性質が彼らの紫外線に対する反応を反映していることが示された。 2023年度はさらに、ヒトの目には黄色の花に着目し、これらの花の紫外線吸収領域の広さに応じて、訪花者の種類に違いが見られるかの調査も行った。その結果、紫外線の吸収領域の割合が小さい種ほど、ハナバチ類の訪花割合が高い傾向(ただし統計学的には有意ではない)が得られた。 本プロジェクトでは、花のUVA反射や、それによって描かれた模様が、どのような植物種にどのくらいの頻度で存在しているのかについて、一般的な傾向を把握するために、花の可視光写真と紫外線写真の撮影も行っている。昨年度までに約150種の花の撮影を行っていたが、今年度は新たに約100種の花の撮影を完遂した。現在は、そこからパターンの抽出を行っているところである。また、この調査の過程で、いくつかの植物種に、ヒトの目では感知することができない、紫外線反射多型(集団内に紫外線反射の程度が異なる花弁をもつ個体が混在している状況)を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はほぼ計画通りに、粘着トラップを用いた実験を行い、概ね期待通りの結果を得た。花の紫外線写真の撮影も、新規に約100種を追加できた。さらにその過程で、ハナニガナやシロバナニガナ、ミヤマキンバイの個体群に、紫外線反射多型が存在していることを発見できた。この紫外線反射多型は、花のUVA反射が送粉者の花選択に与える影響を調べる上で、格好の材料となる可能性を秘めており、本研究プロジェクトにとって重要な発見となるかもしれないと期待している。以上のように、昨年度は天候不順のため遅れていた本プロジェクトではあるが、今年度は概ね予定通りの実験を遂行でき、また新たな発見もあった。このため、概ね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も昨年度に引き続き、UVA反射のパターンが異なる花を利用する送粉者の比較、群集間の花色組成の比較を行う。これらに加え2024年度は、2023年度の調査で紫外線反射多型が発見されたハナニガナやシロバナニガナを用いて、花弁の紫外線反射の有無や程度が、訪花昆虫の種類、訪花頻度にどのような影響を与えるのかの調査を行う。さらに、インタビュースティック(複数の色ディスクを棒の先端に取り付けた装置)を用いた実験で、野外で採餌している様々な分類群の訪花者の紫外線反射の有無に対する反応を調査する。
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Causes of Carryover |
2022年度の天候不順のため、この年の予算の一部は2023年度に繰り越された。2023年度は、2022年度の遅れを取り戻すため、人手を増やし、繰り越した予算は人件費に充てる予定であった。しかし人手の確保に難儀したため、2022年度からの繰り越し分を、2024年度まで繰り越すことになった。2022年度の遅れは、2024年度と2025年度の2年間をかけて、人手を増やして調査を行う予定である。繰り越した予算は、この旅費や人件費に用いたいと考えている。また、調査に必要な光学機器のいくつか(カメラ等)が故障したので、この補充にも充てる予定である。
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Research Products
(1 results)