2022 Fiscal Year Research-status Report
がんによる糖鎖の異常に着目したがん関連認知機能障害のメカニズム解明
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22K06459
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山田 純 九州大学, 医学研究院, 講師 (70582708)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 海馬 / がん関連認知機能障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、がんや抗がん剤によって学習や記憶の障害、不安、抑うつが引き起こされることが明らかになり、がん関連認知機能障害 (cancer-related cognitive impairment, CRCI) として注目を集めている。CRCIではがん患者の生活の質が低下し、日常生活に支障をきたす。本年度は、CRCIのモデルマウスの作出と、海馬のオリゴデンドロサイトに着目した基礎研究を行った。 実験では、メラノーマ細胞株(B16F10)をC57BL/6Jマウスの皮下組織に移植してがん移植マウスを作出し、テストバッテリーによる行動学的解析を行った。オペラント条件付け試験の遅延見本合わせ課題では、がん移植マウスで学習成績が低下することが示された。また、恐怖条件付け試験では、がん移植マウスで海馬依存性の記憶の障害が示唆された。高架式十字迷路試験では、がん移植マウスでオープンアーム滞在時間が減少し、不安関連行動が増加していた。これらから、がん移植マウスはCRCIモデルマウスとして一定の妥当性があることが示唆された。続いて、血清を回収し、サイトカインアレイを行ったところ、がん移植マウスではオリゴデンドロサイトの増殖や分化に関連する分子のレベルが低下していた。組織化学的解析では、がん移植マウスの海馬において、オリゴデンドロサイト前駆細胞やオリゴデンドロサイトの空間分布密度が減少していた。さらに、定量RT-PCRでは、がん移植マウスの海馬において、オリゴデンドロサイトやミエリンの関連遺伝子の発現が低下していた。以上のことより、がん細胞由来因子によって海馬のオリゴデンドロサイトが障害され、CRCIが起こる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、がん関連認知機能障害モデルマウスの作出が完了し、オリゴデンドロサイトに着目した研究が進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
1. がん組織と神経系に共通して誘導される異常な糖鎖の探索 CRCIモデルマウスにおける糖鎖の異常発現を同定し、その原因となるがん由来因子についての探索を行う。具体的には、CRCIモデルマウスのがん組織と海馬からのサンプルを回収し、レクチンアレイを用いた糖鎖のプロファイリングを行うことで、がん組織と神経系で共通する糖鎖の発現異常を捉える。 2. 糖鎖の異常が海馬のPVニューロンに与える影響の解析 CRCIモデルマウスにおける糖鎖とPVニューロンの異常を形態学的・電気生理学的に明らかにする。 3. 糖鎖の改変によるがん認知機能障害の治療の可能性 CRCIモデルマウスの海馬における糖鎖の異常発現やPVニューロンの異常を制御し、新たな治療の可能性について検討する。
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Causes of Carryover |
一部の試薬の納入が遅れたため、次年度の繰越金が生じた。4月中に使用する見込みである。
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