2022 Fiscal Year Research-status Report
複数反応促進型ランタノイド触媒で実現する多置換環状骨格合成
Project/Area Number |
22K06496
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
原田 真至 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (10451759)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | セリウム / 触媒反応 / ドミノ反応 / Nazarov環化 / 一電子酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
医薬品の有効成分である低分子生物活性化合物の多くがその分子構造中に環状骨格を持っている。そして、医薬品がその活性を発現するためには分子骨格に付いた官能基の存在も欠かせない。そのため、環状骨格構築のための新しい化学反応開発と、官能基導入の新しい化学反応開発は、それぞれが有機合成化学だけでなく医薬化学への貢献にも繋がる研究対象である。本プロジェクトでは、これまで独立して開発が行われてきた骨格構築と官能基導入を同時に達成する触媒反応開発を目的としている。そのための手段としてランタノイドに着目した。ランタノイドはレアアース(希土類金属)に含まれる元素群であり、有機合成化学に用いると多彩な機能を発揮する。その中から、ルイス酸性と酸化・還元能の2つの機能を取り出し、環状骨格構築と官能基導入という全く異なる2つの反応を連続的に進行させる触媒反応系の開発に取り組んだ。 セリウム(元素記号:Ce)塩を触媒として使用し、ベータケトエステル構造を持つモデル基質を使って酸化反応の条件最適化を行った結果、室温にて86%収率で酸化的に水酸基が導入された化合物が得られた。さらに、インドールが融合したジビニルケトン基質を使用してNazarov環化とそれに続く酸化の連続反応を検討したところ、セリウム塩によって目的の連続反応が91%収率で進行することを確認した。全てのセリウム試薬が目的の連続反応を促進するわけではなく、セリウム塩の選択が反応性に大きな影響を与えることがわかっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
触媒としてセリウム塩を選択した。セリウムはランタノイド元素の1つであり、ルイス酸性を示すだけでなく、3価と4価の状態が取れることから酸化剤としても働く。ベータケトエステルをモデル基質として、10 mol%のセリウム塩と空気存在下室温で撹拌することでまずは酸化反応の条件最適化を検討した。セリウム塩の選択と、溶媒の選択が収率と化学選択性に大きく影響を与えることがわかった。最適条件にて86%収率で水酸基が導入された化合物が得られた。一方で、酸素雰囲気下で反応を行っても結果は好転しなかった。 酸化反応の最適条件検討結果を元に、インドールが融合したジビニルケトン基質を用いて、Nazarov環化/酸化の連続反応を検討した。セリウム塩によって、a)全く反応が進行せず原料回収のみ、b)Nazarov環化が進行するが酸化反応は進行しない、c)Nazarov環化と続く酸化反応が進行する、と結果に差がみられた。cの結果を示すセリウム塩に対して条件最適化を行い、最高91%収率で目的の環化/酸化体を得た。対照実験として酸化能を有さないイッテルビウム塩(ランタノイド元素の1つ)を用いたところ、Nazarov環化のみが進行し酸化体の生成は確認できなかったことから、セリウム塩触媒の作用による環化/酸化反応が進行したと考えている。 一方で、インドール以外の芳香環が融合したジビニルケトン基質を適用したところ、上記条件では反応がほとんど進行しなかった。一般的にNazarov環化は基質の電子的要因が反応性に大きな影響を与えるため置換基検討も行ったが残念ながら置換基効果は観測できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
基質一般性の拡大のための条件検討に取り組む。インドールを有する基質はインドール特有の反応性によって目的の反応が進行しやすかったことが考えられる。セリウム塩は市販品の検討に留まっていたため、市販されていない塩の合成と適用を検討する。 インドールを有する基質に由来する目的生成物は高い収率で得られているが、ジアステレオ選択性が低い(1:1~2:1程度)ことが問題となっている。上記の検討により反応性の高いセリウム塩を見つけることで反応温度を低下させることができれば立体選択性を向上することができると考えている。また、光の照射によって収率は低下するものの立体選択性が向上することも見出している。立体化学決定メカニズムの解明を含めて検討を進める。 インドールを有する基質については水酸基以外のヘテロ官能基導入を検討する。反応開始時に官能基源を添加していても環化反応には影響を与えぬまま目的の酸化的官能基化ができるかどうかを検討する。ランタノイドは多くの配位子を許容できる性質があるため、ヘテロ原子を含む配位性添加剤が増えても触媒阻害を起こしにくいことが期待できる。
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