2023 Fiscal Year Research-status Report
4価硫黄原子利用法の開拓:新規アルキルスルホニウム塩の合成と反応について
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22K06512
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Research Institution | Meiji Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
樋口 和宏 明治薬科大学, 薬学部, 准教授 (60360195)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | スルホニウム塩 / トリアリールスルホニウム / アルキルスルホニウム塩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、スルホキシドを基質として、従来法となるスルフィドを基質とする方法とは相補的な方法で、新規アルキルスルホニウム塩の安定に供給できる合成法を開発し、その反応性を調査することである。 従来のアルキルスルホニウム塩の合成法は、スルフィドを求電子的にアルキル化するものであり、その手法の簡便性と実用性については、求核的なトリフルオロメチル化剤である梅本試薬(J. Org. Chem. 2017, 82, 7708-7719.)やLiebeskind(J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 12376-12377)らによるクロスカップリング反応の普及によって証明されている。 当該年度に我々は、スルホキシドと酸無水物から形成される活性スルホニウム塩において、求電子性の活性中心である硫黄原子上へ様々な官能基を求核的に導入し、アルキルスルホニウム塩の合成範囲の拡張を試みた。また、一部のスルホニウム塩については、安定かつ大量に入手できる手法を開発した。この結果がアルキルスルホニウム塩の安定な入手法に繋がれば、それらの新たな反応性を開発することができたり、アルキルスルホニウム塩の機能性について様々な研究に展開が期待できる。このような研究はこれまでにほとんど行われていないため、学術的に独自性がある。さらに基質となるスルホキシド群については、硫黄原子が不斉中心になることからキラルアルキルスルホニウム塩の開発や、スルホキシドの水和する性質を利用して水中で機能するスルホニウム塩の創製を視野に入れている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度はスルホキシドを用いたアルキルスルホニウム塩の合成法を検討した。 様々なスルホキシドと酸無水物を反応させて活性スルホニウム塩とし、これに求核剤を作用させてスルホニウム塩へと変換し、それらの結晶性化合物としての単離を試みた。 まずは炭素求核剤として、有機ケイ素・有機ホウ素・有機金属試薬をしたところ、目的物をNMR(核磁気共鳴)スペクトルで確認することができたが、残念ながらいずれも結晶性化合物として単離することができなかった。以上のように、アリールスルホニウムよりもアルキルスルホニウム塩の方が結晶性が悪いことと、化学的に不安定(室温下で徐々に着色してくる)であることが明らかになった。 そこで、結晶性が良く安定性の高いスルホニウム塩を調整するため、無機塩基の水溶液を添加することで、カウンターイオンと塩を形成させ適性を調べることとした。まずは、アリールスルホニウムを合成しトリフルオロメタンスルホン酸塩を形成後、ヨウ化カリウムなどの無機イオンの水溶液を添加して結晶化を試みた。いくつかのアリールスルホニウム塩では塩交換反応が起きていることが機器分析の結果より明らかになった。この際、H-NMR解析でプロトンのケミカルシフトに変化が観測された。これにより、カウンターイオンの交換反応を簡易的に観測できることが可能になった。次にこれまで安定な結晶として単離されていたアルキルスルホニウム塩について、塩交換反応を行った所、カウンターイオンの種類によっては分解反応が起きていた。詳細な分析の結果、カウンターイオンの性質によってアルキルスルホニウムイオン側が脱離反応や置換反応が起きていることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度はアリールスルホニウムを用いた簡易的な結晶化法を開発し、この手法をアルキルスルホニウム塩の結晶化にも適用することができたので、さらにこの手法を使って様々なアルキルスルホニウム塩の結晶化を検討する。また、スルホキシドの活性化方法として酸無水物を使わない手法も行う予定である。この理由は、酸無水物は加水分解されやすいため取り扱いに細心の注意を払う必要があり、我々の研究目標の一つである、誰でも簡便に合成できるアルキルスルホニウム塩の合成の達成には酸無水物の利用は回避すべき点だと考えている。よって例えばリン酸などより温和な条件で活性化できる反応条件を探索する。このような手法を開発することにより、不安定なアルキルスルホニウム塩を数多くの種類で合成できる可能性が期待できる。
また得られたアルキルスルホニウム塩については、生物活性試験を実施する。例えば、ビタミンUは胃粘膜保護があることが知られているため、様々なメチオニンスルホキシドを基質に種々のアルキルスルホニウム塩を合成して構造活性相関を検討することも予定している。この研究については、外部研究機関の協力が必要であると考えている。
また、我々は上記の検討で得られると想定しているリン酸化されたスルホキシドにも興味を持っている。すなわちリン酸化スルホキシドの生体内での機能解明である。我々が調べた限りでは生細胞内で用いることができるトリリン酸化試薬が無く、例えば糖やペプチドなどを簡便にリン酸化することは、生化学の分野において研究の促進に繋がるのではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
ほぼ計画通りに物品を購入することができた。翌年度分と合わせて計画通りに物品購入を進める予定である。
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Research Products
(1 results)