2023 Fiscal Year Research-status Report
ポリイオンコンプレックス技術の最適化による革新的な高分子経皮吸収促進技術の開発
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22K06548
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
徳留 嘉寛 佐賀大学, 海洋エネルギー研究所, 教授 (70409390)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 経皮吸収 / イオンコンプレックス / 水溶性高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は水溶性高分子の皮膚浸透性を向上させることを目的として検討を進めた。水溶性高分子としてはヒアルロン酸、コラーゲンとした。コラーゲンは等電点が約7から9との報告があるので、酸性側にすることでコラーゲンをカチオン化している状態とした。今回の研究の基本的な技術は化合物同士でイオンコンプレックスをさせることで粒子化するものである。 イオンコンプレックスは文字通り系全体のイオン状態が大きく影響することが想定される。系全体の緩衝液濃度(量)がイオンコンプレックスの質に影響していることを考えて、2022年度は緩衝液濃度と粒子物性の関係を評価した。2023年度はさらに緩衝液濃度の最適化を行うとともに、皮膚に浸透したコラーゲンを可視化するために蛍光標識コラーゲン(FITC-COL)の粒子化をおこなった。 その結果、非標識のコラーゲン・ヒアルロンナノ粒子とFITC-COL・ヒアルロン酸ナノ粒子の粒子径、多分散指数、ゼータ電位は大きく変わることはなかった。そして、調製したコラーゲン・ヒアルロン酸またはFITC-COL・ヒアルロン酸ナノ粒子をヒト皮膚に適用し、皮膚中に移行したコラーゲンまたはFITCコラーゲンを観察した。非標識化したコラーゲンは皮膚浸透試験終了後にCollagen Hybridizing Peptide(CHP)で処理することにより、蛍光標識ヒアルロン酸はデジタル蛍光顕微鏡で観察した。その結果、非粒子ヒアルロンと比較して、粒子化したヒアルロン酸では、皮膚内にヒアルロン酸由来の蛍光が高く観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コラーゲン・ヒアルロン酸ナノ粒子の調製:0.1 mMのコラーゲン(COL)溶液と分子量120万の0.1 mMヒアルロン酸(HA)を試験溶液として用いることとした。2022年度よりも低濃度の緩衝液を用いて検証した(検討した緩衝液:1, 3, 15, 20, 30, 50 mMのクエン酸緩衝液)。pHは5に固定した。緩衝液の濃度が濃くなるにつれて粒子径は大きくなった。特に1または3 mMの時に200 nm以下となった。15 mM以上のときは約400 nmとなり大きく変動しなかった。多分散指数は緩衝液濃度20 mMまでは0.2程度であり、大きく変化しないことがわかった。ゼータ電位は緩衝液濃度に依存せずに-20 mV以上であった。したがって、緩衝液濃度を3 mMとした際には粒子径200 nm、ゼータ電位-35 mV、多分散指数は0.2以下の粒子が、20 mMとした際には粒子径400 nm、ゼータ電位-35 mV、多分産子数は0.2以下の粒子が作成可能であった。 また、皮膚中に移行したコラーゲンを可視化するために蛍光標識コラーゲン(FITC-COL)とヒアルロン酸で粒子を調製した。非標識のCOL・HAナノ粒子の粒子径、多分散指数、ゼータ電位とFITC-COL・HAナノ粒子のそれは大きく変わらなかった。 皮膚浸透性:COL・HAナノ粒子とFITC-COL・HAナノ粒子をヒト皮膚浸透試験で評価した。蛍光非標識COLを適用し、試験終了後にCHPで染色、評価した。非粒子化COLナノ粒子と比較して粒子化したCOLナノ粒子を適用すると、皮膚中にCHP由来のピークが強く確認された。しかし、生体由来のCOLが大きく関与していることを想定し、FITC-COLナノ粒子を適用して評価した。先に検討したときと同様で、COLはナノ粒子化することで皮膚内に高送達されることが示唆される画像データが得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度はコラーゲン・ヒアルロン酸ナノ粒子化とその皮膚浸透性を評価した。しかし、2023年度は皮膚浸透性を画像として観察したことで留まった。今後は皮膚中に浸透したコラーゲンを定量化することを考えている。また、皮膚適用時間とコラーゲンの皮膚内送達量の関係を明らかとすることを目指している。 さらに、コラーゲン・ヒアルロン酸ナノ粒子の皮膚浸透メカニズムを明らかにしたい。その方策として、ナノ粒子適用後皮膚の(1)FTIR測定、(2)高輝度X線測定、(3)皮膚中細胞間脂質含量の測定、など考えており、これらを検証する予定である。また、同じ組成で、粒子径の異なるナノ粒子が調製できたので、これらを用いてコラーゲンの皮膚浸透性挙動の違いを調べたいと考えている。これらをしらべることで経皮吸収に関わる因子が少しでも理解できるようにする予定である。
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