2023 Fiscal Year Research-status Report
心不全の進行におけるSOCE制御因子SARAFとその安定化分子ALG-2の関与
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22K06640
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Research Institution | Osaka Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
横江 俊一 大阪医科薬科大学, 医学部, 助教 (40454756)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朝日 通雄 大阪医科薬科大学, 医学部, 教授 (10397614)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 心不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト不全心筋では、慢性的な細胞質内カルシウム(Ca2+)濃度の上昇が心機能の更なる低下を引き起こしている。細胞外から細胞質内へのCa2+流入は、Ca2+チャネルのOraiとCa2+センサーのSTIM1が担うストア作動性Ca2+流入(SOCE)とよばれる機構によって制御されているが、研究代表者らは、種々の心不全モデルマウスの心臓において、SOCEの抑制性因子であるTransmembrane protein 66 (SARAF)の発現が顕著に低下していることを見出した。このことから、心不全病態下ではSOCEを介したCa2+流入の増加が、細胞質内Ca2+濃度上昇による心不全病態悪化の一因になっていると考えた。研究代表者らはさらに、SARAFの発現が低下している要因として、SARAFのユビキチン化を制御しているCa2+結合分子Apoptosis-linked gene-2 (ALG-2) の発現が低下していることを突き止めた。すなわち、ALG-2の発現が低下した不全心ではSARAFのユビキチン化および分解が亢進している事が考えられた。SARAFの発現低下が心不全の病態悪化と関連しているかどうかをさらに明らかにするために、マウスが心不全の病態を発症する前に、心臓組織特異的アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いてSARAFを心臓に送達させたところ、SARAFを送達させなかったコントロールマウスと比較して、心不全病態の進行が抑制された。以上の結果より、SOCE制御因子であるSARAFの発現低下による細胞質内Ca2+濃度異常が心不全病態悪化の一因であることが示唆された。今後、SARAFを標的とした治療戦略を立てることを目標としており、心不全症状の改善や治療法の向上を目指す上でとても意義があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心不全の重篤度によってSARAFとALG-2の発現がどの程度変動するのかを明らかにするために、各種心不全(遺伝性、圧負荷、イソプロテレノール負荷)モデルマウスの心臓切片やホモジネート、単離心筋細胞を用いて、トータルSARAF・ユビキチン化SARAFおよびALG-2の発現レベルや局在変化を観察することを計画していたが、現在までのところ、いずれの心不全モデルマウスにおいてもSARAFならびにALG-2の発現レベルの低下が観察できている。このことは、特定の心不全モデルマウスだけに観察される固有の現象ではなく、心不全病態において広く認められることを示唆しているため、SARAF/ALG-2の重要性をより示した結果と考えられる。また、心不全モデルマウス心臓において、SARAFのユビキチン化が増加していることが観察された。ALG-2がSARAFのユビキチン化を担っているかどうか明らかにするため、HEK293細胞を用いてALG-2を欠損させたところ、SARAFの発現が低下した。以上より、ALG-2の発現低下がSARAFのユビキチン化および分解に寄与していることを明らかにした。さらに、大動脈弓狭窄(TAC)による圧負荷誘発性心不全モデルマウスにおいてSARAFを心臓特異的に発現させたところ、心不全病態の進行・悪化の抑制が観察された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、遺伝発症性心不全モデルマウス(心筋特異的Na+/H+交換輸送体過剰発現マウス(NHE1-Tg)、心筋特異的R9C変異PLN過剰発現マウス(TgPLNR9C))や、植え込み型浸透圧ポンプを用いたイソプロテレノール持続投与誘発性心不全モデルマウスにおいても、心臓組織特異的アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)でSARAFを補填することにより、大動脈弓狭窄(TAC)による圧負荷心不全モデルマウスで観察された心不全病態の進行・悪化抑制効果が観察できるかどうか検証していく予定である。また、AAVでALG-2を補填することによる心不全病態の進行・悪化抑制効果も検証したい。
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Causes of Carryover |
当初、大動脈弓狭窄(TAC)による圧負荷誘発性心不全マウスや、植え込み型浸透圧ポンプを用いたイソプロテレノール持続投与誘発性心不全マウスを作製してSARAFおよびALG-2のAAVによる投与実験を行う予定であったが、HEK培養細胞を用いたALG-2欠損実験や、SARAFのユビキチン化を検討するための免疫沈降実験などに予定よりも時間がかかってしまった。今後、心不全モデル作製のための動物購入や、心不全モデルマウスに投与するための心臓組織標的アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)作製に使用させて頂く予定である。
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