2022 Fiscal Year Research-status Report
新規3次元感覚神経オルガノイドを用いた抗がん剤末梢神経障害の機序・原因療法の探索
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22K06696
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
今井 哲司 京都大学, 医学研究科, 講師 (80468579)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 感覚神経オルガノイド / 抗がん剤誘発末梢神経障害 / シュワン細胞 / 髄鞘障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、研究代表者が初めて開発に成功した「髄鞘を有する3次元感覚神経オルガノイド」を用いて、陽性症状(過敏)と陰性症状(鈍麻)が混在する抗がん剤末梢神経障害(Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy; CIPN)の複雑な感覚異常の発症機序の真相究明を目指すことである。令和4年度では、1) オルガノイドの培養条件の改善と、抗がん剤(パクリタキセルやオキサリプラチン)処置後のオルガノイドの形態変化を観察する、2) シュワン細胞の髄鞘形成を促進する薬物の1次スクリーニングを実施する計画であった。 これまでに、種々の培養条件を試し、効率よく髄鞘形成を誘導しうる条件を確立するに至った。構築したオルガノイドにアデノ随伴ウィルス(神経細胞: AAV-Synapsin-mCherry、髄鞘型シュワン細胞: AAV-MBP-Venus)を処置して、神経細胞あるいはシュワン細胞を蛍光分子にて標識化した。その後、タキサン系抗がん剤を処置し、48時間後から12時間のタイムラプス観察を行ったところ、mCherry 陽性神経軸索を髄鞘化するVenus陽性シュワン細胞が経時的に脱落・変性する現象を確認した。こうした神経軸索変性に先行して惹起される脱髄が、CIPNの一因であると考えられた。 一方、分化シュワン細胞マーカーであるmyelin basic protein(MBP)の免疫活性を指標として髄鞘形成促進薬をスクリーニングした結果、複数のホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬がヒットした。そのなかでもPDE3選択的阻害薬であるシロスタゾール(30 μM)によってシュワン細胞の分化が強力に促進されることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度では、1) オルガノイドの培養条件の改善と、抗がん剤(パクリタキセルやオキサリプラチン)処置後のオルガノイドの形態変化を観察する、2) シュワン細胞の髄鞘形成を促進する薬物の1次スクリーニングを実施する計画であった。 これまでに、1) 感覚神経オルガノイドの培養条件の確立、パクリタキセルによるオルガノイドに含まれる髄鞘形成シュワン細胞の脱落・変性、2) 未分化シュワン細胞の分化促進薬として、複数のホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬が効果を示すこと、並びにこれらの中で、特にシロスタゾールが優れたシュワン細胞の髄鞘形成を促進することを見出している。 1) の課題については、最近、抗がん剤と同様に脱髄が一因となる糖尿病性末梢神経障害にも注目しており、オルガノイドを用いた先行研究を開始している。これらの解析を組み合わせることで、CINPと糖尿病性末梢神経障害に共通する感覚障害のメカニズムを明らかにすることが可能であると期待している。 一方、2) の課題については、さらに薬物ライブラリーのスクリーニングを継続しており、シロスタゾールよりも5倍以上強力なシュワン細胞分化能を有する薬物(候補薬Xとする)を同定している。現在、その候補薬の再現性について確認を進めている。 このように、本研究課題の進捗状況については、当初の計画書通りにおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度では、1) オルガノイドを用いた、CIPN発症における感覚神経の機能変化の縦断的解析、2) 新規 CIPN 治療候補薬の二次スクリーニングを計画している。 1) の課題については、神経マーカー遺伝子のプロモーター下にAAVでGcamp(Ca2+インジケーター)を導入しオルガノイドを構成する感覚神経を識別化し、細胞体におけるGCaMP蛍光強度の変化を指標にCa2+イメージング法により、CIPN条件下での神経活性変化を解析することを計画している。現在、AAVの作製を終え、予備検討を開始している。 一方、2) の課題については、シロスタゾールおよび、候補薬XのCIPN治療薬としての有効性についてさらなる詳細な検討を進める予定である。具体的には、初代培養シュワン細胞にパクリタキセルやオキサリプラチンを処置して惹起されるシュワン細胞障害を、これらの候補薬が抑制できるのか、各種抗がん剤の反復投与により作製したCIPNモデルマウスにおける疼痛関連行動が抑制できるのかについて検討を行う予定である。
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